岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

theater somewhere

映画を文化として守りたい…という民意に支えられて

2018年06月20日

CINEMA e-ra(静岡県)

【住所】静岡県浜松市中区田町315-34 笠井屋ビル3F
【電話】053-489-5539
【座席】152席

 浜名湖と鰻(最近は餃子も)が有名な静岡県浜松市。古くは繊維の街として発展し、戦後は大手楽器メーカーと自動車メーカーの本拠地として知られている。そう言えば、昭和31年の松竹映画『涙』で主人公の若尾文子が浜松の楽器工場で働いていた。

 浜松駅から少し歩いたところに、直営館から場末の二番館までが軒を連ねる映画街があって、昭和30年代にピークを迎えた。夜になるとネオン瞬く歓楽街に変わり、映画館がある種の不良っぽさを漂わせていた時代だ。その街の中心部で最後まで興行を続けていた東映の直営館「浜松東映」が閉館したのは平成20年のこと。その時、この街から既存館は姿を消すはず…だったが、支配人の榎本雅之さんが、東映の岡田祐介会長に「劇場を存続させたい」と掛け合った事で事態は一転する。

 榎本さんがダメもとで頼んでみたところ「お前がやるならイイヨ…くれてやる」と、設備を丸ごとタダで譲ってくれたのだ。そこから2週間で会社を設立して、1ヶ月後にミニシアター「CINEMA e-ra」をオープンさせた。

 222席あった座席を152席に減らして椅子にもこだわった。その想いに多くの企業が賛同してくれたのは、映画を単なる金儲けではなく、文化として守りたいという高い民意の現れからだ。あえて各地で上映を見送っていた問題作『靖国 YASUKUNI』をオープニング作品に選んだのも、その想いに対する映画館の覚悟だ。

 しかし、オープンして間もなくデジタル化の波が押し寄せた。導入に掛かった出費を取り戻すのに2、3年は赤字だったという。それでも早い時期にデジタル化したおかげで、現在は上映作品が多い事に定評があり、1000作品を越える年もあるとか(すごい!)。

 早めのスケジュールを組まれているので、週末には朝から晩までハシゴをされるファンも多い。子供たちの夏休みは早朝の回を設け、『世界の果ての通学路』を子供料金500円で上映した時には、普段ミニシアターに来ない子供たちがお婆ちゃんやお母さんに連れられて、その年2番目の動員数を記録した。

 吹奏楽が盛んな浜松市が全面協力して製作された『楽隊のうさぎ』は、中沢けいの原作を鈴木卓爾監督が映画化。榎本さんはエグゼクティブプロデューサーを務め、エンドクレジットにはヤマハが名を連ねている。自己主張が苦手で、母親に派手な弁当にしないで…と頼むような新入生の男子が、初めて自分の意思で入部した吹奏楽部でティンパニを任されて、定期コンサートの舞台に立つまでの物語だ。

 全てオーディションで選ばれた46人の子供たちは浜松在住の子が多く、中には演技経験ゼロの子もいたという。ところがそれが良かった。初めての部活に戸惑う下級生と、先輩になって居心地が悪い上級生のたどたどしさが見事に表現されていたのだ。


出典:映画館専門サイト「港町キネマ通り」
取材:2014年9月

語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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