岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

theater somewhere

飲屋街にある閉館した映画館が意外な姿となって甦る

2018年06月06日

シアターシエマ(佐賀県)

【住所】佐賀県佐賀市松原2-14-16 セントラルプラザ3F
【電話】0952-27-5116
【座席】スクリーン1:96席 スクリーン2:72席

 佐賀駅前から南に伸びる中央通りを歩いていると、水路が網の目のように走っている事に気付く。ここは海抜が低い平野だから農業用水や水運が発達したのだ。高い建物が無いからだろうか…この街の空はとても広い。市街地は、熱気球が盛んで世界大会も開催されているそうだ。

 30分ほど歩いたあたりで横道に入ると、道の両側に小料理屋やスナックが軒を連ねる復興通りと呼ばれる飲屋街にぶつかった。そうか、ここが街の中心なのだ…道理で駅前がひっそりしているわけだ。その先に佐賀36万石の城下町として栄えた佐賀城跡や県庁など行政の中枢がある。

 その一角にある「セントラルプラザ」という雑居ビルの中に、かつて3スクリーンの映画館「セントラルシネマ」があった。近隣に増えてきたシネコンに対抗すべくビルのオーナーが作った映画館で、飲屋街のシネコンというわけだ。残念ながら10年で閉館してしまったが、翌年、福岡で移動上映活動をしていた現オーナーが引き継ぎ、真ん中の劇場をカフェにして、左右の劇場をミニシアター「THEATER CIEMA シアター・シエマ」(シエマは空が広い佐賀にちなんでシネマとスペイン語のシエロ(=空)を合わせた造語)として甦らせた。

 カフェに生まれ変わったスペースの奥には、実際に使われていたスクリーンがモニュメントとして残されていて(禁煙のライトもそのまま)多くの人たちが訪れる憩いの場となった。本棚にある映画関連書籍は閲覧自由なので、映画好きにはたまらない。ここではトークショーや音楽ライブ、ワークショップなどさまざまなイベントが催されており、『この世界の片隅に』の上映時には音楽を担当されているコトリンゴさんのミニライブが行われた。場内もユニークで、センターの座席はそのままに、両サイドには大小さまざまなソファや椅子が置かれている。カフェで提供される食事は場内へ持ち込み可なので、テーブル席で食事しながら映画を楽しむ…なんて贅沢もできるのだ。

 ロビーの窓から佐賀藩主・鍋島家を祀る佐嘉神社と松原神社が見える。鍋島家と言えば、子供の時に観た化け猫騒動を題材にした大映の怪談映画『怪談佐賀屋敷』を思い出す。佐賀県は映画のロケが多く、中でも松本清張の短編を野村芳太郎監督が映画化した『張込み』は、昔の恋人を訪ねてくる強盗殺人の容疑者を張り込む刑事を描いたサスペンス映画の傑作だ。高峰秀子演じる対象者が住んでいるのが佐賀市で、劇中、松原神社も出てくる。

 取材を終えて外に出ると辺りはすっかり日が暮れて、ぽつりぽつりと飲屋街に灯がともり始めていた。駅に向かって歩きながら、昔の映画館ってこんな繁華街にあったよな…と懐かしさがこみ上げて来た。最近は若い料理人がリーズナブルな価格で美味しい料理を提供する、女性でも気軽に入れそうなお店も増えているので、映画帰りに立ち寄るのもイイだろう。


出典:映画館専門サイト「港町キネマ通り」
取材:2017年1月

語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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