岐阜新聞 映画部

映画にまつわるエトセトラ

Rare film pickup

北野武監督と柳島克己カメラマンの阿吽の呼吸による傑作たち

2018年05月11日

北野映画とキタノ・ブルー

©1993 バンダイビジュアル/松竹株式会社

カメラマンと照明のプロフェッショナルな技があってこそ

 多くの映画評は監督を中心に語られるが、時に革新的な撮影が評価される事がある。日本映画で言えば『東京物語』を代表とする小津安二郎監督のローアングル(カメラマン厚田雄春)が世界的に有名だが、溝口健二監督の『雨月物語』などの長回しや黒澤明監督の『羅生門』の太陽へのショットにチャレンジした宮川一夫、『八甲田山』『鉄道員』など過酷な自然の撮影を得意とする木村大作など、撮影者が脚光を浴びる事もある。

 北野武監督の代表的な作品は、突発的に起こる理不尽な暴力や緊張感が張り詰める台詞と台詞との間など独特の演出が光るが、その北野監督の意図を確実に絵に焼き付けるのがカメラマンである。現時点で18本の北野作品のうち、16本に携わる柳島克己カメラマンが北野映画の一方の立役者である事は間違いない。

 初期作はクローズアップが少なく無機質でモノトーンに近い画面が多いが、素人に近かった北野監督の作品を、画が単調になることなく、質感のある画質と余白の多い構図で独特の「北野調」にならしめたのは柳島氏の功績である。

 特に『BROTHER』(2001年)までの作品には、「キタノ・ブルー」と呼ばれる青色に関する独特の色彩へのこだわりが顕著に見られるが、この監督のこだわりを実現できたのもカメラマンと照明のプロフェッショナルな技があってこそである。

 『あの夏、いちばん静かな海』(1991年)のラストシーンで女の子が青い傘をさして、ひとり主人公を待っているシーンが素晴らしく、次作の『ソナチネ』(1993年)ではブルーが基本トーンになっていく。そこでは沖縄の海や空の青さが映画の内容を彩り、作品の手助けをしている。青春映画の傑作『キッズ・リターン』(1996年)は、東京の街中が舞台であるが、狭い中でもモノトーン的ブルーを実によく醸し出している。

 北野武監督は編集まで自分でやるのだが、撮影に関しては「俺のニュアンスが伝わっていれば、写るものに関してはその道の専門家にまかせる」と言う。監督と撮影者の阿吽の呼吸によって傑作映画ができていくのだと、つくづく思う率直なコメントである。

 北野作品には制作意図がよくわからない珍作(『みんな~やってるか!』など)もあるが、北野武監督は日本映画界の至宝であり、新作が待ち遠しい監督である。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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