岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

theater somewhere

商店街にある映画と本とカフェを愉しむ映画館

2020年11月25日

出町座(京都府)

【住所】京都市上京区今出川通出町西入上ル三芳町133(出町桝形商店街内)
【電話】075-203-9862
【座席】2階スクリーン:48席 地下スクリーン:42席

 毎年 8月16日に開催される、京の夜空を焦がす京都四大行事のひとつ京都五山送り火。その最初に点火される東山如意ヶ嶽山の「大」文字を見物できる最寄駅である京阪電気鉄道と叡山電鉄の起点・出町柳駅では、臨時電車が出るほど多勢の人でごった返す。出町柳という地名は、元々、川の右岸一帯の出町と、左岸一帯の柳という二つの地名を合わせた駅名が定着したものだという。駅の近くを流れる鴨川の本流と支流の高野川が合流する場所でもあり、高野川に架かる河合橋と、数メートル先の鴨川に架かる出町橋それぞれの橋から見える川の風景は素晴らしく郷愁さえ覚える。このふたつの川に挟まれた鴨川デルタと呼ばれるところに、ユネスコ世界遺産・古都京都の文化財のひとつに登録されている下鴨神社がある。

 出町橋を渡ったところにあるアーケード型の出町桝形商店街は、生鮮食料品や日用雑貨店などが軒を連ねる164メートルほどの小さな商店街で、地元の人たちの生活拠点だ。近くには京都大学と同志社大学があることから、学者や学生が多い街でもある。そんな商店街に入ってすぐのところに、懐かしい映画の絵看板を彷彿とさせるファサードを掲げたレトロモダンの小さな映画館「出町座」がある。京都を中心に映画製作・配給を行なっているシマフィルム(株)が2017年12月28日にオープンした本とカフェと映画を楽しめるミニシアターだ。

 元々スーパーマーケットだった建物を全面リニューアルして、1階をカフェと書籍スペース、地下と2階を映画上映スペース、そして3階を教育事業とギャラリー、イベントスペースから成る文化の複合施設となった。朱色に塗られた木の扉を開けると、まず目に飛び込んでくるのが、ロビー中央に配置されたコの字型のカウンター。朝10時から営業している「出町座のソコ」というカフェだ。最初に自動券売機(映画の券売機と間違えないようご注意)で希望のメニューを購入する。こちらでは、定番の軽食や日替わりランチのほかに、上映作品にちなんだオリジナルのスイーツや自家製ドリンクも提供されている。カレーライスを除く全品、場内に持ち込みOKで、ボリュームたっぷりのサンドイッチは暗闇でも食べやすいように工夫されている。旬のビールやサングリアなどアルコールも充実しているので、映画の後はここで余韻を楽しむのも良いだろう。お昼時には映画を観る人だけではなく、学生や近所の人たちが、ぶらっと立ち寄って食事ができる場所になっている。

 カフェを囲むように壁一面に本が並べられている「CAVA BOOKS」は、「旅立つ本屋」をコンセプトとして、映画関連書籍をはじめとするカルチャー系書籍を中心に取り扱っている本屋さんだ。モスグリーンを基調とした本棚は小上がりになっており、階段を上がったり下がったりして本を探すのがとても楽しい。時には上映作品と連携したコーナー展開をされたり、著者によるサイン会やトークイベントなども開催されている。映画の後、買ったばかりの本をカフェで広げて、ゆったりと休日の午後を過ごすなんて最高ではないか。

 「出町座」では、上映作品にしても書籍にしても、お客様が自分で探して発見してもらえる空間を目指している。お客様を1ヵ所に固定させるのではなく、店内を自由に回遊させる…あれこれと物色したりスタッフとの会話の中で新しいものを発見する喜びがここにはあるのだ。ちょうど取材時に、スタッフと話をしていた年配のご婦人が、上映されている映画に興味を抱いて「だったら観てみようかしら」と、チケットを購入して入場する場面に出くわした。あなたにはこれがオススメですよ…というのではなく、会話の中からお客様自身がチョイスする。情報に縛られがちな今の時代だからこそ、こうしたコミュニケーションが大事だと思う。


出典:映画館専門サイト「港町キネマ通り」
取材:2018年8月

出町座のホームページはこちら
https://demachiza.com/

語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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