岐阜新聞 映画部

映画にまつわるエトセトラ

Rare film pickup

静かに逝ったロマンポルノの絶対的エース

2023年02月23日

小沼勝、その才能に魅せられて

先日、突然飛び込んできた小沼勝監督の訃報。神代辰巳や田中登、曾根中生らと並ぶ日活ロマンポルノのエース監督だった。しかし、ほかの監督と圧倒的に異なる点がある。それは日活ロマンポルノの誕生した1971年に監督デビューし、同レーベルが終了する1988年まで絶えず作品を発表しつづけた唯一の監督であるということ。まさにロマンポルノとともに歩んだ監督人生だった。

小沼勝監督の面白さは職人として会社の要求に絶えず応えながら大衆性と芸術性を併せ持っているところにある。大胆なイメージショットの挿入、象徴表現を巧みに用いた演出、時にエキセントリックなまでの照明や色彩で性を描写する。それでいてねちっこいエロティシズムを最も表現できる監督でもあり、女性を最も美しく描ける監督でもあった。なんでもその女優が最もキレイに見えるアングルを狙うのだとか。ポルノとアート、そのバランス感覚が抜群に優れている。

そしてSM映画が多い監督でもある。もともと荒唐無稽な物語を成立させるのが得意な監督なのでSM映画との相性が良かったのだ。特に谷ナオミと組んだ一連の作品群は小沼の代名詞にもなっている。「花と蛇」「生贄夫人」「貴婦人縛り壺」などタイトルくらいは耳にしたことがある人も多いのではないか。この団鬼六シリーズは大ヒットとなり、その後様々な監督の手によって映像化されることになるが、やはり縄が女性の裸体に、精神に食い込んでいく様を最も美しく描写したのは小沼だった。

日活ロマンポルノ後期になるとアダルトビデオへの対抗企画として本番ありのハード路線「ロマンX」はスタートするが、第一弾を任されたのが他ならぬ小沼だった。いかに重宝されていたかがわかるだろう。会社からオールビデオ撮りのキネコ作品としてモザイクを多用せよ、と命令が下った。観て驚いた。こんなのも撮れるのかと。この「ロマンX」路線は面白さより過激なエロが売りなのでクオリティは無視されていたが、その中で小沼作品は少なくとも映画として成立しているのだからさすがだ。そして1988年に日活がロマンポルノから撤退してからはVシネやTVで監督したのち、2本の一般映画を撮って引退した。このうちの1本「NAGISA なぎさ」は瑞々しい傑作だった。最後まで衰えを知らぬ監督として映画人生を駆け抜けたのだ。

せっかくなので偏愛する小沼勝作品を紹介したい。

「さすらいの恋人 眩暈」1978年
監督がナンバーワン女優と公言する小川恵の魅力が炸裂する恋愛映画。いわく「天使の笑顔の印象を強くする」ことを意識したそう。淡く儚いタッチの映像が小沼にしては異色だが、私のベストワンはこの作品。

「昼下りの情事 古都曼陀羅」1973年
真っ白な照明、ピンポン玉を使った表現、2部屋を真上からの俯瞰で捉えたショットなど小沼の芸術性が噴出した作品。京都の情感あふれる風景と女性の自立を描いた本作は監督の特徴を端的に感じることができる作品だと思う。

「花芯の刺青 熟れた壺」1976年
小沼勝×谷ナオミコンビの最高傑作。でもSM映画じゃないのです(笑) 俯瞰ショットはもちろん、割れた鏡に映る裸体や舞い散る桜吹雪などで物語の舞台となる歌舞伎の世界を表現している。刺青シーンのアップが圧倒的。監督いわく「正真正銘、谷ナオミの世界を作り上げた」とのこと。

「ベッド・イン」1986年
監督にとっては不満だったらしいが、荒井晴彦脚本の素晴らしさを引き立たせるエロスの演出はピカイチだ。特に室内での移動撮影が美しく、その鮮やかさに驚く。さりげないショットでも作りこんでくるのが小沼流。

「縄と乳房」1983年
小沼SM映画のマイベストが本作。SMショーを行う男女カップル2人のロードムービー。SMによって彼らの心情が揺れ動く。こんなにも美しい嫉妬があるのかと涙があふれる愛おしい映画。監督も自作で初めて涙した、と語る。

「団鬼六 少女縛り絵図」1980年
小沼勝が手掛けた団鬼六シリーズではこれが1番好き。居場所のない男と絶望した少女がSMを通じて癒しを求めていく精神的な縛りが美しい。神波史男らしく、上流階級への皮肉と反発がくっきり刻まれる。ラストで炸裂するロマンティシズムがたまらない。

「NAGISA なぎさ」2000年
キラキラと輝く12歳の少女なぎさのひと夏をノスタルジックに描き出す。後半に押し寄せる切ない展開に胸が締め付けられる。歌謡曲の使い方が抜群に上手い小沼勝、こんな切ない「恋のバカンス」は聞いたことがない!

私にとって小沼勝はロマンポルノの監督としてではなく、日本の映画監督として大好きは人物である。この機会にぜひその才能に触れてみてほしい。そしてその美しさを感じてもらえたら嬉しい限りだ。なお監督の名著「わが人生、わが日活ロマンポルノ」は映画ファンである監督の映画愛にあふれた回顧録となっているのであわせてぜひ!

語り手:天野 雄喜

中学2年の冬、昔のB級映画を観たことがきっかけで日本映画の虜となり、現在では24時間映画のことを考えながら過ごしています。今も日本映画鑑賞が主ですが外国映画も多少は鑑賞しています。

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語り手:天野 雄喜

中学2年の冬、昔のB級映画を観たことがきっかけで日本映画の虜となり、現在では24時間映画のことを考えながら過ごしています。今も日本映画鑑賞が主ですが外国映画も多少は鑑賞しています。

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