岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

theater somewhere

今まで手つかずだった休館した映画館に再び映画の灯が…

2019年11月27日

前橋シネマハウス(群馬県)

【住所】群馬県前橋市千代田町5-1-16 アーツ前橋上3F
【電話】027-212-9127
【座席】シアター0:116席 シアター1:56席

 4月中旬…数日前に降った季節外れの雪のおかげで、千本桜がちょうど今が見ごろの赤城山を臨む前橋駅を降りる。県庁所在地というのにひっそりとしている、駅前通りを真っ直ぐ10分程歩くと県庁通りという大きな通りに出た。その名の通りここが街の中心で、行政関連や美術館が集まっている。通りを一本奥に入ったところ…市が運営するミュージアム「アーツ前橋」の3階に、2スクリーンのミニシアター「前橋シネマハウス」がある。前身は、1987年にオープンしたセゾン系列のミニシアター「前橋テアトル西友」だったが、その後「シネマまえばし」としてリニューアルオープンするも2011年に休館。それから7年近く前橋市の管理下で講演会や自主上映を行う貸し館だった。

 この場所を文化と芸術の発信基地にしたいと考えた市は、また映画館を復活できないものかと、前橋を拠点に映画の製作・配給を行う有限会社群馬共同映画社に相談を持ちかける。現在「前橋シネマハウス」の支配人を務める日沼大樹さんは「映画の製作・配給と映画館経営は畑違い」と最初は断ったが、その後も市の担当者は足を運び続けると、日沼さんの心境にも少しずつ変化が起こった。「自分が観て欲しい映画を上映する場所を作る事で、多少なりとも映画界への貢献になれば」と引き受ける決断をしたのだ。ところが、そこからが大変だった。オープンまで半年を切っていたため、本業の映画製作と同時進行でオープン準備を進めなくてはならなかったのである。興行のルールなど何も分からない状況での準備に苦労しながらも、2018年3月17日「前橋シネマハウス」はオープンする事ができた。

 しかし、オープンしたのも束の間、しばらくはお客様が来ない日が続き、観客が一日一桁という事もあったそうだ。何から何まで全てが初めてづくしの映画館経営に、試行錯誤を繰り返しながら移動上映やトークショーなどのイベントをコツコツと続けていたところ、少しずつ観客の数も増えてきた。競輪をテーマにした『ガチ星』という作品では地元の前橋競輪が協力してくれて、現役競輪選手と出演者のトークショーを開催したところ評判になったのだ。ターニングポイントとなった地元のドキュメンタリー映画『陸軍前橋飛行場 私たちの村も戦場だった』には、連日満席となるほどの観客が詰めかけ、初日のトークショーは開場30分前から延びた列で満席になってしまったという。最終的には予定していた上映期間を延長して、動員数が3000人を超える大ヒットとなった。

 その頃からお客様にも変化が現れた。「昔ここに来ていたよ」と声を掛けられたり、今まで来ていなかった人たちが来てくれるようになったのだ。更に口コミが広がり、月500人前後だった動員数も、1000人を超える月が多くなった。今では「ここの映画館はハズレがないね」と言われるまでになって、映画館を運営する喜びを実感できるようになってきたと日沼さんは語る。今後はもう少し余裕ができたら、館内をちょっとずつ改修していきたいそうだ。


出典:映画館専門サイト「港町キネマ通り」
取材:2019年4月

語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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