岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

theater somewhere

駅を降りると映像と音楽が溢れる街が広がる。

2024年04月24日

川崎市アートセンター(神奈川県)

【住所】神奈川県川崎市麻生区万福寺6-7-1 
【電話】044-955-0107
【座席】113席

東京・新宿駅から急行電車に揺られること30分程…小田急線の新百合ケ丘駅は、緑豊かな街並で東京のベッドタウンとして人気のあるエリアだ。実は、新百合ケ丘は川崎市の中でも文化事業に積極的に取り組んでいる事でもよく知られており、駅前には「昭和音楽大学」や故・今村昌平監督が設立した「日本映画大学」が建っている。また今では全国的にも認知されている「KAWASAKIしんゆり映画祭」や「麻生音楽祭」が開催されるなど「しんゆり・芸術のまち」をモットーとして、街を挙げて芸術文化発展の拠点作りを推進している。

そんな街に芸術文化振興の拠点となる2007年10月31日にオープンした「川崎市アートセンター」がある。駅から徒歩3分…万福寺の入口に位置する「川崎市アートセンター」は全面ガラス張りの近未来的な建物で、夜になるとライトアップされた幻想的な姿を浮かび上がらせる。正面の階段を上がり、2階部分に当たるエントランスから中に入ると、日中は充分な自然光を取り入れる明るく開放的なアーチ型のロビーが広がる。正面に位置するチケットカウンターを挟んで、左手奥には国内外の新作・旧作を1日4~5作品入れ替え上映を行っているミニシアター「アルテリオ映像館」と、右手には古典から現代演劇・ダンスなどを上演する「アルテリオ小劇場」の2つの劇場がある。時には小劇場と映像館でコラボレーション企画を開催しており、ゴールデンウイークには高畑勲監督のアニメ『セロ弾きのゴーシュ』の上映と俳優によるパフォーマンスで宮沢賢治の作品に触れる『こんにちは、賢治さん』が行われる。

「アルテリオ映像館」の最大の特徴は、様々なフィルムに対応出来る映写設備を有している事だ。戦前の古い作品でも当時のサイレントスピードやフルフレームで上映できる特殊な35mm映写設備を備えている他、16ミリ・35ミリは勿論、4Kデジタル・シネマの上映に至るまで幅広く対応している。映写室の横には、バリアフリー上映の際、目の不自由な方のための音声ガイドをFM電波などで劇場内に発出する副音声室がある。通常の上映だけではなくこのシステムを取り入れて、幅広い層に映画を楽しんでもらえる施設なのだ。更に、「芸術を創り、育て、楽しむ」を基本コンセプトとして、新たな映像作家を目指す人たちを支援する場(芸術を創造する場)として施設を提供しており、3階には「映像編集室」やナレーション収録に最適なミキシングシステムを備えた「録音室」また1階には舞台装置や美術、小道具制作が可能な「工房」などが備えられている。

3階には誰でも自由に利用出来るコラボレーションスペースがあり、こちらでは講師を招いて映画・演劇に関する講演会を行ったり、定期的に子供向けのアニメーション教室や映画講座といったワークショップを開催されている。今年の3月には「日本映画大学」の教授を招いて「映画風景論〜映画で楽しむロケーションの魅力〜」という何とも魅力的な公開講座が開催された。また恒例のイベントとして「映画タイムマシン」と銘打った子供たちに向けて活弁ワークショップやサイレント映画に音楽や効果音を付けるなどの体験学習やワークショップなどが開催されている。勿論、今後も映画や演劇に深く接してもらえるようなイベントが計画されているという。ちなみにイベントが開催されていない時は、フリースペースとなっており、映画が開場されるまでの待ち時間をゆっくりと過ごすなど自由に使える。また2階には、お母さんにありがたい「授乳室」も完備されているので、安心して利用していただける。

このように上映やワークショップが充実した施設だが、見逃してはならないのがチケットカウンターの横に展示されている故・今村昌平監督がカンヌ国際映画祭でパルムドール受賞した時のトロフィー(レプリカではない、本物!)だ。当初の計画段階では映画を上映する劇場は考えられていなかったそうだが、地元の人々も交えて協議を重ねた結果、映画と演劇、2つの劇場が作られる事となり、その際に「日本映画大学」の学長だった故・佐藤忠男氏からも様々なアドバイスをいただいて現在のような運営スタイルが構築された。他にも映画に携っている有識者の方々の協力により、まるで毎日が映画祭と言えるような贅沢なプログラムが実現したのだ。勿論、特集上映や通常の上映時にも「日本映画大学」に講師として来られた監督をお呼びして上映だけではなくトークショウを開催するなど、作り手と観客がふれ合える場所を提供してきた。映画だけではなく古今東西様々なエンターテインメントに触れて体験や学習する事が出来るイベントを通じて、未来のクリエイターがここから生まれるかも知れない。


出典:映画館専門サイト「港町キネマ通り」
取材:2008年2月(2024年4月加筆)

語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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