岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

theater somewhere

晩夏の庄内地方で名作のロケ地と映画館を満喫

2018年05月16日

鶴岡まちなかキネマ(山形県)

【住所】山形県鶴岡市山王町13-36
【電話】0235-35-1228
【座席】スクリーン1:165席 スクリーン2:152席 スクリーン3:80席 スクリーン4:40席

 日本海に面して遠くに出羽三山を望む庄内地方は、時代小説家・藤沢周平の故郷である。そのため、原作は東北を舞台にしたものが多く、映画化されている『たそがれ清兵衛』や『武士の一分』などは庄内の海坂藩につかえる下級武士を主人公としている。徳川幕府も終わりに近く、決して裕福とは言えない武士の庶民的な一面を捉えた傑作が多い。

 中でも、黒土三男監督が10年以上の歳月をかけて日本全国のロケハンを行って完成させた『蝉しぐれ』は最高傑作だ。藩内の騒動に巻き込まれ切腹させられた父親の教えを守る息子・文四郎と幼馴染・ふく(頰が紅い田舎娘を佐津川愛美が好演!上手い!)との淡い恋ごころを描いている。

 この映画のロケ地となった街・鶴岡市をどうしても見たくて、残暑の厳しい9月初旬に、仙台から奥羽本線、陸羽西線、羽越本線と各駅停車を乗り継いでやって来た。田んぼには、実りの時を迎える直前の稲が青々と風に揺れている。

 今回の旅の目的は、劇中、文四郎の身を案ずるふくがお参りする田んぼの中にある小さな祠を探すこと。この祠は昔からあるものではなく、羽黒町にある個人の畑に撮影用として作ったもの。あまりにも素晴らしいシーンだったので畑の持主がそのまま残したそうだ。ここは観光案内には載っていないため、やっと見つけ出せた祠は、やや朽ちかけていたものの映画と同じようにひっそりと佇んで嬉しかった。

 そこからすぐのところに「玉川寺」という鎌倉時代から続く曹洞宗のお寺がある。別名「花の寺」と呼ばれ、寛永7年に羽黒山を司る50代別当となった天宥の造った四季折々の花が咲く庭園は国の名勝に指定されている。吹き抜けの本堂に入ってくる風が心地よいので、抹茶と和菓子のセット(500円)をいただきながら庭園をゆっくり鑑賞させてもらう。平日の昼間に男性の一人客なので、歴史を研究していると思われたらしく、お茶を運んでくれた給仕さんが専門的なお話をしてくれたのだが、キチンと返答できず恥ずかしかった。

 このように数多くのロケ地として使われているにも関わらず、市内には何年も映画館が無かった。時にはエキストラで出演しているのに、肝心の地元住民がその映画を観られない…次第に「街に映画館を」という声が上がり始めた。そして昭和初期に建てられた木造平屋建ての絹織物工場をリノベーションして「鶴岡まちなかキネマ」が2010年にオープンする。

 ロビーの天井は長さ11メートルの杉の天然無垢材を使用したトラス構造で、当時のままの外観に建築賞が授与された。規定の高さを出すため地面を掘り込む工法を採用した4つの場内は、床にクリ材の無垢板、壁面にはスギ材を使用。背板と肘掛けが木製の座席は、誰でも分かるように、アルファベットではなく「あいうえお」表記にするなど細やかな配慮が施されている。


出典:映画館専門サイト「港町キネマ通り」
取材:2010年9月

語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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