岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

theater somewhere

長野大通り沿いに建つガラス張りのランドマーク

2022年02月23日

長野グランドシネマズ(長野県)

【住所】長野県長野市権堂町1506
【電話】026-233-3415
【座席】8スクリーン 1365席

長野県・善光寺のお膝元にある門前町の権堂町は、国定忠治の舞台として知られ、古くから歓楽街として栄えてきた場所である。季節を問わず多くの参拝客と地元の人たちで賑わう長野市の中央部だ。同時に、この界隈は昔から映画の街として親しまれ、最盛期には16館もの映画館が軒を連ねていた。今では残っている映画館もめっきり少なくなってしまったが、それでも映画好きの長野市民は、映画を観ると言えば権堂町に足を運ぶ。この地が、映画のロケ地として数多くの作品の舞台に使われているのも映画を愛する土壌が培われてきたからであろう。商店街を歩いていると「中劇通り」と通りの名前に今は無き映画館の名前が残っているのを見つけると嬉しくなってしまう。

私の手元に、長野郷土史研究会が発行する季刊誌「長野」がある。毎回テーマを決めて長野県内の歴史を様々な角度から調査して紹介されている読み応えのある冊子だ。そこで「映画館の今昔」というテーマで三回に渡って、長野県内にあった映画館や映画史について、当時を知る人たちの寄稿と併せて紹介していた。これがとても面白い。誌面には明治30年7月8日に長野市で初めて活動写真が上映された当時、初めて観る動く映像に市民は拍手喝采を送っていた様子が書かれている。権堂町は明治時代から近年まで信州一の花街として栄え、その周辺には多くの寄席や芝居小屋が軒を連ねていたという。中でも善光寺の境内に芝居小屋があったというのは驚いた。やがて昭和に入ると芝居小屋は映画館へと姿を変えて、戦後の最盛期を迎えた昭和35年には、市内に16館もの映画館が建ち並び、この館数の多さは国内の地方都市でも他に類を見ない。

長野駅から街の中心を南北に走る幹線道路・長野大通り沿いに、全面ガラス張りの壁面が印象的な映画館「長野グランドシネマズ」がある。元々は南に300メートル程の場所にあった「長野東宝グランド劇場」を移転して、平成18年6月にオープンした独立型のシネマコンプレックスだ。当時はシネコンと言えば、郊外のショッピングモールに併設したスタイルが一般的であったが、映画館は誰もが通いやすい街の中心部や繁華街の近くにあるべきというオーナーの意向で、古くからこの地で映画館を営み、市民にも馴染みの深い長野電鉄権堂駅から近いこの場所を選んだという。

運営する中谷商事株式会社は、戦後から長野県の映画産業に携わってきた老舗の興行会社で、昭和25年8月に信濃吉田駅に設立した二番館「吉田映画劇場」が前身である。後に二番館からロードショウ館へと興行形態も変わり、昭和41年4月、権堂町に長野市初の本格的ボーリング場と映画館が併設する「長野グランド劇場」をオープン。メジャー系の大作・話題作から単館系のアート作品まで幅広いジャンルの作品を上映してきた街の映画館として、40年に亘り親しまれてきた。シネコンになる以前は正月やお盆休みに公開される話題作に出来る長い列が風物詩であり、『タイタニック』や『もののけ姫』では長野大通りに大行列が出来たという。

長野県初のシネコンとしてオープンした「長野グランドシネマズ」は、設立当初は新しい入場システムに慣れていないお客様が、完全入替・指定席システムに戸惑われていた事もあったが、今では常連のご年配者でも年に100本近く観賞される強者も見られるようになった。夜の長野大通りを歩くと、地上3階まで全面ガラス張りとなっている壁面が幻想的な光の塔となって浮かび上がる。どうしても閉塞感のある作りになってしまう映画館のイメージを払拭するため「明るく開放的な劇場」というコンセプトを基に設計を行った。街のランドマークになる建物を目指したというデザインは、まさに映画の街・権堂町のシンボルである。ロビーは3階までの吹き抜けとなっており、ガラス張りの壁面から昼間は燦々と自然光が降り注がれる。実に開放的な心地よい空間だ。夜になると雰囲気は一転。2階へ続くらせん階段に埋め込まれたLEDが七色に光り幻想的な雰囲気を醸し出す。

市内にある映画館は全てが徒歩圏内にあるため、熱心な映画ファンは、上手くスケジュールをやりくりして映画館を行き来して映画の梯子を楽しんでいる。映画と映画の間に、商店街でご飯を食べたり買い物をしたり…と、街を周遊する昔ながらの映画観賞スタイルが残っているのだ。ファンにとっては街の中で観たい映画をチョイスできるので、梯子をするには理想的な環境と言えるのではないだろうか。だからこそ常連客は顔見知りとなり、おのずとスタッフとの距離が近くなるのも特徴である。時々、都内で入手したチラシを持って来て「この映画はやらないの?」と要望される常連さんもいるそうだ。だから事務所には、そんかお客さんが持って来られたチラシの保管棚を設けて、社内で協議されているという。マニュアル化されていない街の映画館「長野グランドシネマズ」は、地域の人たちが気軽に訪れられるよう共に成長している正に地元密着型のシネコンなのだ。


出典:映画館専門サイト「港町キネマ通り」
取材:2009年10月

「長野グランドシネマズ」のホームページはこちら
http://grandcinemas.net/

語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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