岐阜新聞 映画部

映画にまつわるエトセトラ

Rare film pickup

作家性と優れた職人的演出術を併せ持つ監督

2024年04月01日

増村保造監督の作品世界

増村保造は作家性と優れた職人的演出術を併せ持つ日本映画を代表する監督のひとり。東京大学を卒業しローマの映画実験センターに映画留学をした秀才で、大映で溝口健二や市川崑の助監督を経て1957年に青春恋愛映画「くちづけ」で監督デビューした。

「くちづけ」は日本映画に多い情緒的な恋愛映画ではなく、エネルギッシュな魅力に溢れた作品であった。

  続く第二作の若尾文子主演「青空娘」は現代日本版シンデレラのような話だが、メソメソ感など一切ないポジティブでさわやかな青春映画の快作。

三作目の「暖流」は吉村公三郎監督の名作メロドラマのリメイク。情感豊かなオリジナル作品を、自我を押し通すヒロインを圧倒的な肯定感で描いた恋愛映画に作り変えることに成功した。

開高健原作の「巨人と玩具」は広告業界の内幕を戯画化した増村保造の初期の代表作。センチメンタリズムを排除したエネルギッシュな社会派群像劇は当時の映画では画期的であった。

「妻は告白する」は若尾文子のヒロインが愛を求めるエゴイズムが強烈な印象を残す、増村保造の転機となった傑作。以後、増村保造・若尾文子のコンビは、「夫が見た」、「清作の妻」、「刺青」、「赤い天使」、「華岡青洲の妻」など傑作を連打する。

中でも「清作の妻」は、若尾文子演じるヒロインがたとえ国を敵に回しても愛する夫の命だけは守り抜こうとする壮絶な情念を描いた増村保造の最高傑作。

増村保造は女性映画ばかりでなく男性が主人公の娯楽映画でも優れた作品を数多く撮っていて、産業スパイを描いた田宮二郎主演の秀作「黒の試走車」、勝新太郎と田村高廣の傑作バディ映画「兵隊やくざ」、市川雷蔵主演の和製スパイ映画の最高峰「陸軍中野学校」などはその代表的作品。

大映倒産後も、原田美枝子主演の「大地の子守歌」や梶芽衣子主演の「曽根崎心中」などの傑作を残している。

日本的な社会の束縛に屈することのない人間の自我を肯定する映画を撮り続けた増村保造の演出スタイルは、彼が描きたかった主題と密接に結びついている。必要のない風景ショットは撮らず登場人物のみを追い続け、会話する人物は常に同一画面で捉えアクションとリアクションを同時に描き、ニュアンスに頼る感情表現はさけセリフではっきりと意思表明させる。センチメンタリズムを排したエモーショナルな密度の濃い作品は、こうした理詰めの演出から生まれた。

語り手:井上 章

映画鑑賞歴44年。出来る限り映画館で観ることをモットーとし、日本映画も外国映画も、新作も旧作も、ジャンルを問わず観てきたおかげか、2006年に、最初の映画検定1級の試験に最高点で合格しました。

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語り手:井上 章

映画鑑賞歴44年。出来る限り映画館で観ることをモットーとし、日本映画も外国映画も、新作も旧作も、ジャンルを問わず観てきたおかげか、2006年に、最初の映画検定1級の試験に最高点で合格しました。

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