岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

theater somewhere

東京の下町にある複合文化施設で世界の名作を堪能。

2023年07月12日

シネマブルースタジオ(東京都)

【住所】東京都足立区千住1-4-1 東京芸術センター2F 
【電話】03-5354-4388
【座席】294席

平日の昼間からほろ酔い気分のおじさんたちが闊歩していたディープな街というイメージがあった北千住今は昔のこと。今では下町最大のターミナル駅として再開発が進み、住みたい街ランキングの上位に名を連ねるまでになった。だからといって本来の北千住らしさまで失ったわけではない。西口を出てすぐ…昔からある飲み屋横町は今も変わらずだ。明るいうちから営業している立ち飲み屋には多くの常連が早々に酒盛りを始めている。さくさくに揚げられた串カツや絶妙な焼き加減の焼き鳥など、食通を唸らせる肴をリーズナブルな価格で提供し、千ベロの店が多いのもこの路地が愛される所以だ。近年では、敢えてこの路地に小さな店を構え、創作料理を提供する意欲的な若い料理人も多くなってきた。

そんな飲み屋街を抜け切ったところに、地上22階の「東京芸術センター」がある。最上階にはコンサートや展示会などを催す事が出来る多目的ホール、低層階には絵画や彫刻を展示する美術館と本格的な撮影スタジオを有する複合文化施設だ。2006年に、アレクサンドル・ソクーロフ監督の名作『エルミタージュ 幻想』をこけら落としにオープンした映画館「シネマ ブルースタジオ」は、国内外の旧作を中心に、35mmフィルム上映が行われている。ここでフィルム上映をやっている情報を聞きつけて、わざわざ遠方から来られる方も多い。

1階ロビーに設置されている自動券売機でチケットを購入して場内に入ると、まずはホールの広さに驚く。幅10メートル程のスクリーンを視界いっぱいに楽しみたいという常連さんは最前列を好まれ、最後尾の席は背後の大きな映写窓からフィルムを操作している様子を見えるのでファンに人気がある。また、全席が可動式となっており、座席を移動すれば映画スタジオとしても活用出来る。取材に訪れた時に、ホールから出てきたご年輩の方たちが、「昔、映画館で観た名作を久しぶりにスクリーンで観せてくれてありがとう」とか、「もう観る事は無いと思っていたけど、また観られて嬉しかった…」と、スタッフに対して口々にお礼を言われていたのが印象に残った。

以前、アラン・ドロン特集を行った際に、『太陽はひとりぼっち』のフィルム缶を開けたら、それまで上映した劇場のチェック表が入っていたというエピソードを映写技師さんが話してくれた。そこには今はもう無い映画館の名前が載っており、作品の歴史が缶にも詰まっているのだ…と思ったという。「黒澤明監督作品のフィルム缶を開けた時には、何十年も回り回って全国を巡って来たフィルムが目の前にあるわけなので、敬虔な気持ちになりました」と語ってくれた技師さんの言葉が印象に残る。お客様の層は、年輩の方がメインだが、最近では若いお客さんの姿も目立っており、上映作品もフィルム時代の映画だからといって古い映画ばかりではなく、ロイ・アンダーソン監督やソフィア・コッポラ監督特集など、振り切った作品も取り上げられている。

こちらでは映像制作の支援にも力を入れており、映画やCM撮影が出来る巨大なスタジオがある他、毎年、自主映画のコンペティション『映像グランプリ』というイベントも開催されている。作品のテーマは自由でDVD素材であれば誰でも応募が可能だ。1ヵ月間の一般公開審査を経て、グランプリに輝けば、何と!100万円の賞金が授与される。期間中は自分たちが作った映画を大きなスクリーンで観てもらえるという貴重な機会を得ようと毎回100作品が集まるという。「建築物とは、市民、建築主、設計者の合作である」これは東京芸術センターを設計した(株)村井敬合同設計の社名にかけた思いとして紹介されている。この言葉は正に映画館も同じではないだろうか。映画は人に観てもらって初めて生をなす。だからこそ多くの若いクリエイターたちがコンペティションに参加するのだろう。映画館という空間で、観客・作り手・興行主の思いが合わさった時に初めて素晴らしい映像体験が生まれるのだ。そのどれかが欠けても映画は本来あるべき力を発揮出来ないのだから。


出典:映画館専門サイト「港町キネマ通り」
取材:2017年3月

語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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