岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

theater somewhere

静岡市内にあった明治時代から続く映画館通り。

2023年05月31日

【思い出の映画館】七ぶらシネマ通り(静岡県)

【住所】静岡県静岡市七間町15〜17
【座席】静岡オリオン座/静岡有楽座/静岡ピカデリー/静岡ミラノ 7スクリーン 2257席
※2011年10月2日を持ちまして閉館いたしました

県庁所在地で、政令指定都市である静岡市の駅から少し離れたところにある七間町には、平成の中頃まで昔と変わらない映画街が残っていた。シネコン全盛の時代に珍しく、大手各社の封切館が5館とピンク映画館1館が固まっており、ここに来れば映画ファンの欲求は満たされる場所だった。七間町は江戸時代から数多くの商店が立ち並ぶ物流の拠点として栄え、明治時代には芝居や寄席、大正時代には数多くの映画館が軒を連ねる娯楽の中心地となった。七間町町内会が発行する「七間町百年の記録 七間町物語」によると、明治時代にこの界隈にあった芝居小屋「若竹座」で、リュミエール兄弟のピタスコープを使って初めて行われた上映が、静岡市における映画の起源とされている。それから七間町には次々と寄席と活動写真を興行する小屋が設立された。大正8年4月に新聞販売店である江崎新聞店が興行会社の静岡活動写真(現在の静活)を設立して洋画専門館「キネマ館」や「電気館」をオープン。以来、静活は県内の映画興行におけるエポックメーキング的な役割を担い、戦後の映画黄金期を経て現在に至るまで、数多くの名作・話題作を送り続けた。

私が初めて七間町を訪れたのは今から17年前。町の中心を走る七間町通りは「七ぶらシネマ通り」と呼ばれており、昭和通りから2ブロックの50メートルほどの区画は、まるでパリのシャンゼリせ通りを彷彿とさせる石畳の歩道となっていた。さながら映画のセットと見紛うような整理された「七ぶらシネマ通り」には年代物の映画の機材を展示したショーケースが設置されており、まるで映画の博物館のようだった。これらの品々は「映画の街として、ありきたりなアーケードではなく、映画の香りがする通りにしたい」という商店街の人たちの思いに松竹大船撮影所が賛同し、無償で提供してくれたものだ。機材の中には「君の名は」や「二十四の瞳」で実際に使用された撮影機もあって、通りを歩くだけで映画の世界に入り込める…そんな夢のような場所だった。

「七ぶらシネマ通り」の中心にあったのは、昭和32年に設立された松竹の封切り館「静岡オリオン座」と地下にある洋画専門館「静岡有楽座」。外壁にはスーラの絵画「グランド・ジャット島の日曜日の午後」をモチーフとしたタイル画が全面に施されており町のシンボル的な存在だった。取材時に映画館の裏側を見せてもらうと、もう使われていない楽屋と浴室が埃にまみれてひっそりと存在していた。これは昭和30年代に舞台挨拶やSKDの歌謡ショーなどが行われていた頃の名残りで、島倉千代子や渥美清も使われたという。舞台挨拶中に停電となった時、渥美清は懐中電灯を持って舞台に上がりアドリブで観客を沸かせたというエピソードは今でも語り種となっている。屋上に上がらせてもらうと向かいにある「静岡ピカデリー」が目の前に見える。昭和34年にオープンした「静岡文化会館」は、「静岡ピカデリー」の他にアイススケート場とプラネタリウムが入った静岡初の複合型文化施設で多くの市民が訪れた。屋上には半球体の錆びついたプラネタリウムのドームが残っており、隣にあった小さな成人映画館「静岡小劇場」に舞台挨拶で来場された女優さんを囲んでフリートークが行われていた。通りの奥にある昭和36年に日活の封切館としてオープンした「静岡ミラノ」は、石原裕次郎人気で連日多くの観客が詰めかけたが、昭和40年代に入るとATGやフランスのBOWシリーズをメインとしたミニシアターとしてアート性の高い作品を送り続けた。

どの劇場のロビーもシネコンほど華やかではないが、エントランスから一歩足を踏み入れた途端に漂ってくるポップコーンの香りで映画への期待感も高まる。売店のショーケースに綺麗に並べられた既製のお菓子も映画館では魅力的に見えるのが不思議だ。ロビーには、どこにつながるのか不明な階段があったりして、意味なく上がってみるのも楽しかった(結局、行き止まりだったりするのが殆どだが…)。古い映画館は改築と増築の繰り返しで迷路のようになり、歩き回るだけで充分待ち時間を潰せたものだ。日本全国で町が変わりつつある中、昭和の映画街が平成まで残っていた事に、静岡県民が七間町に誇りを持ち、映画文化を大事にされていたのがよく分かる。天気が良いので駅から「七ぶら」に習ってぶらぶら歩いてみると、休日のお昼どきで人出が多いにも関わらず、都会にありがちな喧騒感はなく、ゆったりとした時の流れを感じるのがイイ。「七ぶらシネマ通り」にあった静活が運営する映画館は老朽化のため長きに亘る役目を終えて平成23年10月に閉館。現在、映画の灯は新静岡駅ビルにあるシネマコンプレックス「シネシティザート」が受け継いでいる。


出典:映画館専門サイト「港町キネマ通り」
取材:2006年6月

語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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