岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

theater somewhere

上映作品を選ぶにも妥協は許さない…北の都の映画館。

2022年05月25日

シアターキノ(北海道)

【住所】北海道札幌市中央区狸小路6丁目南3条グランドビル2F 
【電話】011-231-9355
【座席】2スクリーン 163席

北海道札幌市で生まれ高校を卒業するまで私はこの街で18年間を過ごした。学校帰りには街の中心部を通るため、放課後はとにかく映画を観まくった。当時の札幌は殆どの新作映画が二本立てだったので人生で一番映画を観ていたかも知れない。高校3年の時に担任から「受験間近なのだから映画は少し控えるように」と注意を受けたほどだ。ところが、その先生も映画好きで帰りに呼び止められて一緒に映画を観に行くことが時々あったのだから成績が上がらなくても仕方ない。そしてよく映画を観に行ったのが札幌の中心部を東西に走るアーケード商店街の狸小路商店街だった。この通りを西から東に歩けば大体の映画館に行くことが出来た。狸小路とは珍しい名前だが、別に狸が名物というわけではなく、諸説あるが私が担任から聞いたのは、料金を誤魔化して倍の値段で売っていた商店があったから人を化かす狸に例えたという。

そんな狸小路商店街の西側に位置する場所に市民出資のNPO型映画館「シアターキノ」がある。1980年代後半に訪れたブームで一気に増えたミニシアターだったが、90年代に入ると過渡期に差し掛かり、飽和状態となったミニシアターが今度は閉館に追い込まれていた。「シアターキノ」がオープンしたのは、そんな厳しい時代のただ中にあった1992年7月4日だった。遠く離れた東京に住んでいた私の耳にも狸小路の近くに新しいミニシアターがオープンして、北海道の映画ファンから注目を集めているという一報はすぐに届いた。丁度その年…市内にあった老舗ミニシアターで多くの固定ファンを有していた「ジャブ70ホール」が閉館したばかりで、もう札幌では採算の見込めない映画は観ることが出来ないのかと思っていた矢先だったから正直言って驚いた。

なかなか帰省出来ないまま初めて「シアターキノ」を訪れたのはオープンから15年も経っていた。まだ狸小路には「東宝プラザ」も札幌駅の北口には名画座の「蠍座」も健在だった頃だ。取材時にお話を伺った支配人の中島ひろみさんが「シアターキノ」をオープンする時、全国のミニシアターを経営されている皆さんからもらったのは「やめた方がいいよ」という言葉ばかりだった。それでもカリスマ的映画館だった「ジャブ70ホール」が無くなった事で、逆に「やるしかない!」と腹を据える事が出来たと、当時を振り返っていたのが印象に残る。

1986年より商業映画館ではかからない様々な映像作家の16mmやビデオアート作品を上映していた映像ギャラリー「イメージガレリオ」を改装して、客席数29席しかない「日本一小さな映画館」としてスタートを切ったのが「シアターキノ」の前身だ。「ジャブ70ホール」で使用していたシートを譲り受けて、お金を掛けなくても自分たちが出来るギリギリ最低限の映画館としてジェーン・カンピオン監督の『エンジェル・アット・マイ・テーブル』でオープニングを飾った。それから間もなくウォン・カーウァイ監督作品が注目を集め好調な滑り出しを切り、更に『トレインスポッティング』においては1日6回上映のフル回転であっても満席が続き、とうとう29席という狭さに限界が訪れた。

丁度、その時に現在のビルの建設工事が行われており、中島さんは施主さんに何回も足を運び、映画館をビルの中に入れてもらえないかと直談判をした。その時にビルの社長さんが言った言葉が実に粋だった。「10年間は続けられますか?10年続けられるのでしたら一緒にやりましょう」そこから設計や仕様を映画館向きに変更してくれたのだ。そして1998年4月28日、現在の場所に移転して100席と63席の2館体制で再始動する事となる。正面エントランスの壁面に大きく掲げられた映画スターのイラスト看板が目印となった。

ロビーの壁面にはゲストの直筆サインが書かれていて誰が来場されたのか探してみるのも楽しい。また個人の方から提供された「キネマ旬報」のバックナンバーが揃っており、自由に閲覧出来るのでペラペラと眺めて待ち時間を過ごすのも良いだろう。ロビーと併設するカフェ「KINO CAFE」の壁には、調湿性に優れた北海道産の珪藻土を使用しており、温もりを感じさせる優しい雰囲気の中で待ち時間も快適に過ごす事が出来る。両館共に場内はスタジアム形式を採用して、どの席からでも観易さをキープしている。また、作り手の想いを出来るだけ良いレベルで再現する事を念頭に置いて、設計の段階から音響にこだわった。繊細な音が多いアート系の作品では微妙な音のニュアンスが重要なポイントとなるため、JBLのステ-ジスピーカーをメインに8台のスピーカーを設置して最高の環境を作り上げている。

「シアターキノ」の会員制度「KINO会員」は、年度切り替えで、ビンテージからスタンダードまで4つの種類が用意されている。ビンテージ会員の中には帯広や釧路から土日を利用して訪れる熱烈なファンもいるほど。だからこそ作品ひとつ選ぶにも力が入り、選定基準も話題作であれば何でも良いというわけではない。作品に作り手の決意や思いが伝わって来ない映画は、どんなに注目を集めていてもお断りしていると中島さんは話してくれた。映画館は映画が産声を上げる場所なので、大切に作られた映画を上映する時に手を抜いたら映画が可哀想だから…と、送られてくる映画は全て自分の目で観て決めているという信条が強く心に残る。


出典:映画館専門サイト「港町キネマ通り」
取材:2007年8月

「シアターキノ」のホームページはこちら
https://www.theaterkino.net/

語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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