岐阜新聞 映画部

映画にまつわるエトセトラ

Rare film pickup

ロマンポルノが生み出した数々の名作と才能

2022年11月26日

日活110周年!ロマンポルノ新作公開記念!

©1956日活株式会社

ジャンルレスな自由度の高さが時代を超える

日活ロマンポルノ、それは大手映画会社である日活が1971年から製作を開始した成人映画のレーベルだ。それまでの成人映画は独立プロダクションの製作するピンク映画が主流だった。そこに東映が過激な成人映画路線を敷いたがあくまで様々な路線のうちのひとつであり、性描写に特化した映画のみを大手が手掛けるというのは前例のないことだった。しかも低予算とはいえ大手ゆえの潤沢な予算、豪華な衣装やスタジオ、優秀な技術スタッフなど一流の環境があった。

そんな日活ロマンポルノだが、濡れ場とヌードがある70分前後の作品であれば比較的監督の自由に作ることができた。それが自分の作りたい映画が作れる、と若手監督たちに火をつけた。スクリーンには自身の才能を遺憾なく発揮した数々の名作がズラッと並んだ。プログラムピクチャーとして量産されるがゆえの駄作も多いが、それ以上にこのレーベルが生み出した作品や才能は日本映画界にとってかけがえのないものだ。初期から神代辰巳、小沼勝、田中登、曾根中生監督らが大車輪の活躍を見せ、後期になると「デスノート」やガメラシリーズの金子修介監督や「櫻の園」の中原俊監督、池田敏春、根岸吉太郎監督らがデビューした。

私は中学三年生のときに日活ロマンポルノと出会った。ちょうど日活が100周年の年、自然と情報は入って来たのだ。まぁ、中学生なので鑑賞の動機はもちろん…。そして記念すべき初体験は「ピンクのカーテン」(ちなみに私は3がベスト)。驚いた。面白い!そのまま続けて観たのは「狂った果実」。これが突き刺さった。当時人間関係に悩んでいた私には、不器用な主人公の気持ちが痛いほどわかり、そこに描かれた切ない青春に涙が止まらなかった。このとき、日活ロマンポルノを追い続けると心に決めた。

それからどれだけの作品を観ただろう。ある時は涙し、ある時は呆れ、またある時は美しさにハッとする。男性のために作られた映画ではあるが、性別や時代を超える作品もたくさんあった。ぜひとも食わず嫌いせず、一度は触れてみてほしい。ジャンルレスな作品群を追いかける楽しさにハマってしまった私はその沼から抜け出せずにいる。

最後に、独断と偏見で選んだ大好きな作品を少々…

「さすらいの恋人 眩暈」都会の片隅で出会った男女の切ない恋愛模様…傷ついた2人の愛おしくかけがえのない時間が中島みゆき「わかれうた」に乗せて綴られる。小沼勝監督が優しいタッチで描く恋愛は美しい。

「狂った果実」互いを傷つけることでしか触れ合えなかった男女の破滅的な青春。互いに傷やコンプレックスを抱えて生きる若者の姿に胸が苦しい。根岸吉太郎監督のスタイリッシュな演出と東映出身の神波史男脚本が見事なマッチ。

「母娘監禁・牝」女子高生の危うい心情とやり場のない絶望を繊細に描いた荒井晴彦脚本と主人公の魅力を引き出した斎藤信幸(水丸)監督。愛を知りながらも生きる意味を見失った少女がみせる表情が切ない。

「ラスト・キャバレー」金子修介監督による失われるものへの愛おしい眼差しが印象的な1本。娘の親離れや若者の恋愛、過去への憧憬…青い照明に彩られた水が降り注ぐシーンの美しさといったら。

「天使のはらわた 赤い教室」過去に強姦された女と彼女に惚れたエロ本編集者の男。残酷な運命に翻弄される2人の心が悲しい。石井隆脚本による村木と名美の物語をアバンギャルドな曾根中生監督が冷たいタッチで描く。蟹江敬三が素晴らしい。

「女子大寮VS看護学園寮」ひと夏を過ごす大学生たちを描いた群像劇。斎藤博による浮遊感あるセリフの数々が定まらない学生の夏休みを象徴する。タイトルからは想像できない爽やかだけどちょっぴりビターな青春映画。

「㊙色情めす市場」アート映画の域に達している田中登監督の傑作。ドヤ街を舞台に主人公の鬱屈した日常、母との確執、羽ばたけない弟…それでも生きていくために抗うその生命力に圧倒される。パートカラーの力強い映像も見どころ。

「赫い髪の女」神代辰巳監督の代表作。過去を話さない女とダンプカー運転手の男、そしてとりまく人々…むせかえるほどの湿度と熱量、鬱屈した男女の汗にまみれた日々が愛おしい。文学の香りが漂う傑作。

「おんなの細道 濡れた海峡」女を置いてやくざから逃げ出した男が未練の中でふらふら漂うロードムービー。東北の寒く美しい風景の中で出会う寂しさをまとった人たち…武田一成監督が情感たっぷりに描く優しさと切なさとやるせなさ。

「牝猫たちの夜」ソープランドで働く3人の風俗嬢と彼女をとりまく男たち。何が起きても笑顔をふりまき生きていく彼女たちの強さと美しさ。心の傷を身体で受け止める後半のシークエンスは田中登監督の優しさが光る名場面。

とりあえず10本選んでみたがまだまだ好きな作品はたくさん。「昼下りの情事 古都曼陀羅」「花芯の刺青 熟れた壺」「ベッド・イン」「赤線玉の井 ぬけられます」「桃尻娘 ピンク・ヒップ・ガール」「わたしのSEX白書 絶頂度」「新宿乱れ街 いくまで待って」「愛欲の日々 エクスタシー」「闇に浮かぶ白い肌」などなど…かなり迷った作品は数えきれない。

と、いうわけでこれらの紹介はまた別の機会にするとして、私の日活ロマンポルノを追いかける旅はまだまだ終わりそうにありません!

語り手:天野 雄喜

中学2年の冬、昔のB級映画を観たことがきっかけで日本映画の虜となり、現在では24時間映画のことを考えながら過ごしています。今も日本映画鑑賞が主ですが外国映画も多少は鑑賞しています。

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語り手:天野 雄喜

中学2年の冬、昔のB級映画を観たことがきっかけで日本映画の虜となり、現在では24時間映画のことを考えながら過ごしています。今も日本映画鑑賞が主ですが外国映画も多少は鑑賞しています。

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