岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

theater somewhere

紀ノ川が流れる城下町にあるシネコンで映画三昧。

2022年12月14日

ジストシネマ和歌山(和歌山県)

【住所】和歌山県和歌山市松江向鵜ノ島1469-1 ガーデンパーク和歌山2F
【電話】073-480-5800
【座席】10スクリーン 1974席

有吉佐和子の小説「紀ノ川」の舞台となる紀ノ川は、奈良県の大台ヶ原を源流として和歌山市の中心を通って紀伊水道に注ぐ全長135キロにも及ぶ。物語は明治時代まで氾濫を起こしていた紀ノ川の治水事業に着手した地元有力者の元に嫁いだ主人公・花の半生を描いている。名匠・中村登監督の手で映画化もされている。映画は花を演じる司葉子を乗せた嫁入りの舟5艘が川を下る壮大な場面から始まる。プレスシートによると撮影には、当時の川を再現するため和歌山市の協力でダムを堰き止めて水量を増やすという大規模なロケ撮影を敢行したという。日が暮れて嫁ぎ先の村に入る舟の灯りが水面に映る映像が幻想的で美しい。小説では紀ノ川を「まるで流れているとは思えぬほど静かに平面的に」と書かれているが、日照りが続くと干上がり、天候が荒れると周辺に大規模な水害をもたらしていた。政界に進出した主人公の夫が治水事業に乗り出すキッカケとなった花の言う「豊かな紀ノ川を豊かに使わないから水が怒る」が当時の紀ノ川を表している。

関西空港から南海特急に乗り継いで40分程…和歌山市駅に到着する手前で視界が開け、市街地と紀ノ川が車窓いっぱいに広がる。河口付近の川幅は500メートル近くあって、電車が川を渡る時、その大きさに圧倒されてしまった。和歌山市駅から紀ノ川に出ると、歩行者と二輪車専用の河西橋がある。こんなに長い歩行者専用の橋は初めてお目にかかるが、元々、明治45年に架けられた鉄道橋を昭和32年に歩道橋に改築された。今回は時間がなくて断念したが、次回訪れた時は是非、歩いて渡ってみたいと思う。絶対に橋の真ん中から見る紀ノ川の風景は圧巻だったに違いない。街は紀ノ川を挟んで南北に分かれており、南側は紀州藩の城下町として栄えた歴史ある建造物や街並みが、今も各所に残る旧市街で、映画のラストで主人公の娘を演じた岩下志麻が、天守閣から市内を見下ろす和歌山城がある。

対岸の北側は、和歌山大学や郊外型のショッピングモールを中心に住宅地が広がり、新しい街が形成されている。和歌山港に面したエリアには戦中の昭和17年から操業する日本製鉄和歌山製鉄所があり、工場の端から端まで車の移動に10分も掛かるそうだ。バブル時代には工場で働く職員が、敷地内の移動にタクシーを使っていたという。戦後の好景気には街に住む多くの人がここで働いていたが、オートメーション化されてからすっかり減ってしまった…とタクシーの運転手さんが話してくれた。かつて日本製鉄のグランドがあった跡地に、県下最大級の品揃えを誇る書店やレンタルショップ、カフェなどを有す大型エンターテイメント施設「ガーデンパーク和歌山」がオープンしたのは平成16年12月11日。全面ガラス張りで開放的な吹き抜けのエントランスからエスカレーターで2階に上がると、10スクリーンのシネマコンプレックス「ジストシネマ和歌山」の広いロビーが広がる。1階は、書籍、文具、そしてCDとDVDのレンタル・販売を行う「TSUTAYA WAY」なので、映画が気に入れば、帰りがけに、サントラ盤CDや原作本を購入したり、監督や出演者の過去作品のDVDをレンタルする人も多い。

取材で訪れたのはあと数日で令和に変わる平成最後の31年4月。本当はもっと早く訪れるつもりだったが、その前年の9月に和歌山県は未曾有の災害に見舞われた。立て続けに近畿地方に上陸した大型台風によって数日間の休館を余儀なくされたのだ。当時の状況は関西国際空港の連絡橋にタンカーが衝突して機能がマヒしていた映像で覚えている方も多いだろう。その台風の直撃をモロに受けたおかげで、チケット売場の天井が吹き飛ばされて穴が空いてしまい、そこから大量の雨が吹き込んできたのだ。出勤した朝に水浸しとなったロビーを前に、運営が再開出来るのか?と思いながらもスタッフ総出で復旧を急いだ。幸いな事に映写機とエアコンが故障していなかったので再開の目処も立った。2週間後に一部のスクリーンで上映を再開すると、待ち兼ねたかのように多くのお客さんが詰めかけた。仮設のコンセッションで缶のドリンクを仕入れて何とか販売が出来た時のお客様の笑顔と励ましの言葉は今も忘れられないと、スタッフの連石紘充さんは当時の様子を語ってくれた。

「ジストシネマ和歌山」に来場されるメインのお客さんは、近隣に住んでいる年輩層が中心だが、中には御坊や田辺、串本から高速を使って一日掛かりで来る方も多い。横17.3m×縦7.2mの大スクリーンを有するシアターでは話題作を中心に編成を組み、サロンシネマと呼ばれる全席ワンクラス上のシートを採用するシアターでは劇場イチオシの独自の番組編成を組んで、幅広い年齢層のファンから支持されている。近年は上映作品のジャンルもバラエティーに富んでおり、B級C級のアクション映画やスリラーには中高年男性のお客さんが多く来場されている。こうした積極的な取り組みから、それまで大阪まで新作を観に行っていた人たちからも「次は何をやるの?大阪に行かないで待っているからここでやって欲しい」という声が多く寄せられるようになった。

また、アニメに力を入れており、ファンの間ではグッズの品揃えに定評がある。『ONE PIECE FILM STRONG WORLD』の上映時には、来場者特典で単行本0巻を配布したのも手伝ってロビーをファンが埋め尽くす事態となった。中には初めてアニメを観たというご年輩のお客さんが、帰りがけスタッフにお礼を言われる事もあったそうだ。近年は子供の頃に『名探偵コナン』をここで観たというお父さんが自分の子供を連れて来場されたり、アルバイトの面接で「昔、お婆ちゃんと来ていた」と言う若者も増えてきたという話を聞くと、シネコンも懐かしい想い出の対象に加わったのか…と感慨深く思う。私の映画館の想い出が、ゴジラとカチカチに固まったソフトクリームであったように、現在の若い人たちが、コナンとフライドポテトに変わっただけで、根本は昭和でも令和であっても何ら変わらないのだろう。ちなみに「ジストシネマ和歌山」のフライドポテトは、知る人ぞ知る隠れた名物で、表面がカリカリサクサクの食感を目当てに来場される方も多いそうだ。


出典:映画館専門サイト「港町キネマ通り」
取材:2019年4月

「ジストシネマ和歌山」のホームページはこちら
https://www.o-entertainment.co.jp/xyst_cinema/wakayama/information.html

語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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