岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

theater somewhere

戦後からハマの映画ファンを唸らせ続けた双子の映画館

2019年10月16日

シネマ・ジャック&ベティ(神奈川県)

【住所】神奈川県横浜市中区若葉町3-51
【電話】045-243-9800
【座席】ジャック:96席 ベティ:115席

 古くから横浜の危なっかしい雰囲気を現在に残す黄金町は、黒澤明監督の名作『天国と地獄』の舞台であり、濱マイクが事務所を構え、街頭にはヨコハマメリーが立つ街だった。昭和20年5月29日の横浜大空襲によって一面焼け野原となった横浜は、戦後10年近く、国内の62%を占める土地を米軍に接収され、山下公園の海岸よりは米軍関係者の住宅地、伊勢佐木町からこの黄金町界隈は飛行場となっていた。焼け残ったデパートも米軍専用となり、映画館も駐留軍用の劇場とされていた。

 やがて、4丁目までだった伊勢佐木町通りは8丁目まで伸び、90万人の人口も100万人を越えて復興の兆しが日に日に現れ始めていた。そんな昔ながらの飲み屋が並ぶ一角に「横浜名画座」は、昭和27年12月25日に『陽のあたる場所』と『ウィンチェスター銃'73』の二本立てでオープンした。それが現在の「シネマ・ジャック&ベティ」だ。平成3年にリニューアルした時に、双子の映画館として、レッドを基調とした「ベティ」で外国映画、ブルーを基調とした「ジャック」で日本映画の名作の特集上映をしていた。当時のハマっ子から「洋画は日劇、邦画は名画座」と親しまれていた。

 平成17年2月に一度は閉館した「シネマ・ジャック&ベティ」だが、横浜だけに留まらず全国の映画ファンから「近代文化の発祥の地、横浜から名画座の灯を消すな!」と多くの声が上がり、横浜の老舗映画館は再び息を吹き返す事となった。設立当時は、館名があまりにも映画館らしくない事から、映画館と気付かず通り過ぎる人も多かったが、今では横浜市民にとってオアシスのような存在。多い時には両館合わせて15作品も上映しているので、休日ともなるとふたつの劇場を器用にハシゴするファンも少なくない。

 階段を上がっていくと、中央の受付を挟んで右手に「ジャック」、左手に「ベティ」がある。受付を背に振り返ると、壁一面には向かいにあった「横浜日劇」が描かれ、壁に立て掛けられた当時のスピードポスターを眺めていると時が経つのも忘れてしまう。以前、日本映画の名作上映をされていた時、上映後に一人の老婦人が目頭を押さえながら「良かった…私、何度観ても泣けちゃうんですよ」と語る姿を見て、この映画館がこの土地に根付いているのだなぁ…と感じたのを鮮明に覚えている。休日になるとロビーは若者から年輩者まで幅広い地元の映画ファンで溢れかえる「シネマ・ジャック&ベティ」は、ハマっ子にとって無くてはならない場所なのだ。


出典:映画館専門サイト「港町キネマ通り」
取材:2007年4月

語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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