岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

theater somewhere

ドラマ『港町純情シネマ』の舞台となった映画館

2021年05月26日

【思い出の映画館】銚子セントラル(千葉県)

【住所】千葉県銚子市末広町5-12
【座席】 304席
※2007年2月2日をもちまして閉館いたしました

人けの無い小さな映画館と港町は何故か良く似合う。昭和55年にTBSで放送された西田敏行主演のドラマ『港町純情シネマ』の舞台となった千葉県と茨城県の境にある銚子港は、関東有数の水揚げを誇る外房の港町だ。港町の一日は早く、まだ夜も明けきらぬ時間に港から出ていった船が戻り、獲れた魚が市場で競りに出され仕事が終わるのが朝の8時。普通のサラリーマンが出勤する時間だ。海の男たちは仕事帰りに朝食と一緒にビールを飲み、お昼前には仕事から解放される。ドラマの主人公は父が経営する小さな映画館「港シネマ」で映写技師として働きながら映画のヒーローに自分の姿を投影する。不器用でだらしがない男を演じたらピカイチの油が乗り切っていた西田敏行が実にイイ。世界の名作映画に登場する名台詞や音楽が多用されて映画ファンの心を擽る楽しいドラマだった。また若き日の市川森一が手掛けた脚本も素晴らしく、この年の芸術選奨新人賞を受賞した。そのロケ地として使われたのが、銚子駅から5分ほどのところにあった港町の映画館「銚子セントラル」である。

まだ映画が娯楽の中心であった昭和33年に洋画専門のロードショウ館として創業。以来、数々の娯楽作を送り続け、最盛期には市内に「銚子エイゲキ」と「銚子マリン1・2」の3館も経営していた。街の裏通や住宅街にある映画館の看板は昔と変わらず存在しており、情報誌などに頼らず看板に誘われるがまま空いた時間にぶらりと入ってみる…それが当たり前の時代だった。最盛期の昭和30年代には市内だけでも8館も映画館が軒を連ねていたが、テレビの台頭、そしてレンタルビデオの普及に伴い平成10年を過ぎた頃からこの4館を残すのみとなってしまった。

「銚子セントラル」のロビーには革張りのゆったりとしたソファが設置され、常連客はいつもテーブルに置かれている新聞を広げて上映開始までゆったりと過ごす。いつも清潔に清掃が行き届いたロビーは快適だ。最近は受動喫煙防止から館内は全て禁煙という劇場が増えている中、昔からの馴染みの常連客が多いここの劇場では、年輩の常連さんが煙草をふかしながらおしゃべりに興じる姿は何とも微笑ましい。一歩場内に入ると永い年月を経た劇場とは思えない程の手入れが行き届いたきれいな空間が広がっている。歴史ある風格とピカピカに磨き上げられたフロアから、多くの観客に心地良く映画を楽しんでもらいたいという劇場の気持ちが表れている。スクリーンとの距離が充分に保たれた最前列からでも観賞し易く、場内後方はスタジアム形式となっているため、前列の頭が邪魔になることが一切無い。東京の映画館に比べても決してひけをとらないと、支配人さんが自負されている通り快適な空間である。番組が替わるごとに来場される常連さんは各々お気に入りの席が決まっていて、入場されると真っすぐお決まりの席に腰を下ろす。

人口8万人程の町の映画館では、動員数のピークは公開して2週間で迎え、そのため上映サイクルも早い映画では3週間、平均すると5週間と短い。だからこそ可能な限り面白い作品を上映するように、支配人さんも配給会社と交渉を重ねて頑張っていたのだが、それでも年々、来場者は減少の一途を辿り、昔のような活気はなかなか戻らなかった。以前は、ひと仕事を終えた漁師さんや港の関係者が朝から映画を観に来てくれていたというが今ではその姿もめっきり減ってしまった。設立当初から単独館としては珍しく駐車場を完備しており、「市場から軽トラで乗り入れて映画を観に来るお客さんも多かったんだよ」と当時を振り返る。ところが次第に若者たちは街で映画を観なくなった。昔は商店街で買物をしていた人たちがショッピングモールで全て完結して家に帰ってしまうため、通りを歩く人の姿もめっきり減ってしまったのだ。そこに漁獲高の減少である。漁師として生計を立てていた人も減り、町は更に厳しい時代を迎えていた。取材を終えて港に行くとひっそりと静まり返った寒空の中、たくさんの漁船が停泊していた。そう言えば「港町純情シネマ」の主人公は元漁師だ。そして「銚子セントラル」は、その翌年の平成19年2月2日に49年の歴史に幕を下ろした。ラストショーは支えてくれた町の人たちに感謝を込めた無料上映の『男はつらいよ 紅の花』だった。


出典:映画館専門サイト「港町キネマ通り」
取材:2006年1月

語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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