岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

theater somewhere

震災が起きたあの時…映画館は人々に希望を提供した。

2021年03月10日

ポレポレいわき【現:まちポレいわき1&2】(福島県)

【住所】福島県いわき市平字白銀町1-15世界館ビル 
【電話】0246-22-3394
【座席】114席
※写真は震災後の取材当時(2011年4月)のものです。現在は「ポレポレいわき」(7スクリーン)から「まちポレいわき1&2」(2スクリーン)へリニューアルされております。

 2011年4月下旬、僕は福島県の浜通にあるいわき駅にいた。そろそろ初夏に季節が移ろうというのに、茨城県と接する東北の入口にある街は、まだ寒さが薄らと残っている。かつて炭坑の街として栄え、エネルギー政策の転換によって炭坑が閉山されると温暖な気候に恵まれていた地の利を活かして、昭和を代表とするレジャー施設「常磐ハワイアンセンター(現在のスパリゾートハワイアンズ)」を設立し、一大観光施設として大成功を収めた。日本アカデミー賞を受賞した映画『フラガール』の舞台として脚光を集めた場所だ。そんなのどかな街に突然それはやってきた。2011年3月11日、宮城県牡鹿半島沖130キロを震源とする東北の太平洋沿岸部を襲った東日本大震災だ。福島県にも甚大な被害をもたらし、連日、全ての報道番組では各地域の被害を伝えていた。日に日に被害の大きさが明らかになってきた中、少しずつ復興に向けた取組みが報告され始めた3月の終わり、福島の映画館がいち早く再開したというニュースに目を奪われた。それがいわき駅前から見える街の映画館「ポレポレいわき」だった。…あの日から10年が経つ。

 「ポレポレいわき」で午後の映画の入れ込みが終わってひと息ついた時だった。およそ6分に渡る震度6弱の揺れは、階段の壁面を剥がし、展示されていた年代物の映写機を倒しガラスを突き破った。当時、館内にいた50人の観客をスタッフ総出で向かいの駐車場まで誘導したものの、周辺一帯が停電していたため誰一人状況が分からずしばらく坊然としていたという。その地震が東北地方の太平洋沿岸部を襲った大震災である事を知ったのは、映画館のオーナーが止めていたカーラジオから流れるニュースだった。劇場から毛布やストーブを運び出して、一晩を明かす覚悟までしていたそうだ。その後、機能し始めた避難所にお客様を移動させて、ひと段落したところで劇場で作り置きしていたポップコーンを避難所に持って行き皆で分け合って食べた。

 やがて水道も復旧して、人々も落ち着きも見せ始めた3月29日に劇場は再開。とは言え決して順調な滑り出しとは言えず、映画のフィルムがいつ届くか分からないため、スタッフは何度も郵便局まで足を運んだという。再開した当日、千葉県から送られてきた救援物資のチョコレートやクッキーを無料配布すると、思わぬプレゼントに来場者は久しぶりの楽しいひと時を過ごした。不完全でも映画館が開いているというニュースは街に元気を取り戻す明るい話題となり、僕は夜行バスに乗って被害の少ない会津若松を経由していわき市に入った。劇場のチケット売り場には多くの人たちが列を作り、おしゃべりしながらパンフレットを眺める高校生たちや家族連れのお父さんがポップコーンとドリンクを購入する姿が印象に残る。映写機の調整が終わる寸前に2回目の余震によって大きなダメージを受けて、心が折れそうになりながらも少しずつ日常を取り戻してきた劇場の姿がそこにあった。

 「ポレポレいわき」の創設は昭和6年。まだいわき駅が平駅という名前だった頃、大映専門館の「世界館」が前身となる。終戦前に強制疎開で取り壊され、終戦後の昭和21年11月に再建された。当時は物資不足により建築資材の調達は困難を極め、東京のヤミ市で材料をかき集めて建設されたという。再開すると娯楽に飢えていた市民が殺到し、チケット売場ではお札をトランクに詰めては次々と銀行に運び出したという豪快な逸話が残っている。昭和44年駅前の区画整理事業に伴い、戦後から親しまれ続けた「世界館」が取り壊され、新たに3つの映画館とパチンコ屋、喫茶店や雀荘などが入る総合娯楽施設の世界館ビルが設立して現在の礎を築いた。平成22年には7スクリーン体制となり、一般公募による現在の館名で再スタートを切ると、駅前という立地の良さからファミリーや中高生が多く、休日にはお年寄りから学生グループが訪れる姿が見られる。2018年6月には、小名浜港に新設されたイオンモールいわき小名浜内に、9スクリーンを有するシネマコンプレックス「ポレポレシネマズいわき小名浜」としてオープン。そして、「ポレポレいわき」は、現在は2スクリーンのミニシアター「まちポレいわき1&2」として単館系を中心とした良質な作品を送り続けている。そして2011年2月にスタートした「ポレポレ映画祭」も震災を乗り越えて今年で第11回を迎えた。今度はコロナ禍において我慢を強いられている多くの人たちに映画を通じて笑顔を提供している。


出典:映画館専門サイト「港町キネマ通り」
取材:2011年4月

ポレポレいわき【現:まちポレいわき1&2】のホームページはこちら
https://machipole-iwaki.com/

語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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