岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

theater somewhere

南国の街で良質な映画を送り続けるミニシアター

2021年04月14日

宮崎キネマ館(宮崎県)

【住所】宮崎県宮崎市高千穂通1丁目178 カリーノ宮崎駐車場内TRUNK
【電話】0985-28-1162
【座席】166席
※4月2日からアゲインビルよりカリーノ宮崎駐車場内「TRUNK」に移転いたしました

 九州の南東部にある宮崎駅を出ると、県木フェニックスが立ち並ぶロータリー。ここは南国なんだなぁ…と思う。街の中心は駅前ではなく歩いて15分ほどの場所にある県庁前の橘通界隈だ。平成12年に設立されたNPO法人「宮崎文化本舗」が運営する県内唯一のミニシアター「宮崎キネマ館」は、まさに街の中心部に位置する複合商業施設の2階にある。オープンしたのは平成13年3月24日。それまでは、市内にはメジャー系の映画館だけで単館系の作品を掛ける映画館が無かった。ちょうど映画100周年の年に、宮崎でも何か出来ないか?と、地元企業から相談を持ちかけられ「宮崎映画祭」が立ち上がった。この映画祭を足掛かりに常設映画館設立の気運が高まったのがキッカケである。

 設立時は地下にあったのだが、契約していたビルの管理会社が破産したため、ビルのテナント計画が見直され、オープンから僅か2ヵ月程でフロアの移転を余儀なくされる…という波乱万丈の幕開けだった。オープニング作品は、市内にあった東映の専門館が閉館したため、当時人気絶頂の『ONE PIECE ねじまき島の冒険』のファースト上映が実現した。初めての映画館立ち上げに張り切ったスタッフは、総出で市内のお店にポスターを貼らせてもらう交渉をしたり、あちこちに割引券を配って回った結果、予想を遥かに上回るお客様が来場された。その後も『ホタル』と『バトルロワイヤル(特別編)』の公開が続き、連日大盛況だったという。その間にも地下から2階に映画館を移してオープンさせるための突貫工事が進められ、従業員全員で椅子とか映写機を運ぶ…といった作業を繰り返していた。それから2ヶ月後、現在の場所で無事に再オープンを果たす。

 エスカレーターを2階にあがると、目の前に受付と兼用のチケット窓口がある。ちょうど夏休みの子供向けアニメを上映していたのでお母さんに連れられた子どもたちがお菓子を買ってもらうと、ワイワイ言いながら場内に消えていく。元気のいい夏休みの映画館は、こちらまでワクワクしてしまう。上映作品は、ミニシアターには珍しく東映作品(現在は東映アルファ系)と単館系の2本柱となっている。当初、多目的ホールとして作られた「シネマ2」を映画館仕様に改装する費用を賄えたのは、東映映画『半落ち』のヒットのおかげだとか。フラットの場内に段差を付けて、常設の椅子を導入する事が出来たので、仲間うちでは「シネマ2」の椅子を「半落ちシート」と呼ばれているという。

 メインのお客様は年輩の女性というだけあってヒット作としては、連日立見になった『アメリ』や、韓流ブームの頃には、ペ・ヨンジュン主演の『スキャンダル』に、多くのファンが押し寄せた。また『アリスのままで』の公開時に開催された「自分らしく生きる」というテーマのトークイベントには、多くの女性客が参加されたという。一方で、『エヴァンゲリオン Q』を県内で独占公開を行い、若者たちの徹夜組が出る程の反響を見せたり、『僕たちは世界を変える事ができない』の公開時では、主演の向井理の舞台挨拶を目指してスタッフと観客が一丸となって応援メッセージ動画を作成。その努力の甲斐があって見事一位を獲得すると、当日は予想を遥かに超える観客が来場し、急遽、1300席ある県立芸術劇場のホールを借りて、追加の上映と舞台挨拶を行った。

 宮崎で観る事が出来なかった映画を上映出来る映画館を作りたい…という思いから始まった「宮崎キネマ館」は今年の3月で20周年を迎えた。昨年は新型コロナウィルスの影響で延期された「宮崎映画祭」も制約の中で皆で力を合わせて1月開催に漕ぎ着けた。映画館が元の日常を取り戻した…とまでは言えなくても少しずつ前に向かって歩み続けている。2月14日には施設の老朽化に伴う施設移転のため一時休館。最後には35ミリフィルムで『蒲田行進曲』と『ゆれる』を上映して長年応援してくれたファンと共に一時の別れを惜しんだ。そして4月2日にはカリーノ宮崎駐車場内TRUNKにて、スクリーン数を4スクリーンに増やした新生「宮崎キネマ館」がオープンした。やっぱり映画は映画館のスクリーンで観たい!と思う映画ファンと、最高の環境で映画を送り届けたいと頑張る映画館スタッフがいる限り、決して宮崎市から映画館の灯は消える事がないだろう。


出典:映画館専門サイト「港町キネマ通り」
取材:2015年8月

宮崎キネマ館のホームページはこちら
http://www.bunkahonpo.or.jp/cinema/

語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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