岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

theater somewhere

愛知を代表する工業都市で名作を送り続ける街のミニシアター

2019年08月07日

刈谷日劇(愛知県)

【住所】愛知県刈谷市御幸町4-208 愛三ビル5F
【電話】0566-23-0624
【座席】スクリーン1:55席 スクリーン2:76席

 名古屋市内から快速を使って30分足らず、愛知県の中央、三河地方の西の端に位置する国内有数の自動車工業都市として知られている刈谷市。駅前のロータリーから伸びる商店街にどこか懐かしさを感じつつブラブラ散策していると、古い大衆食堂を見つけて思わず入ってみたくなる。今では閑散としている駅前通りも、ひと昔前までは人通りも交通量も多かったと聞く。そんな名鉄三河線・刈谷市駅前に昭和29年創業のミニシアター「刈谷日劇」がある。

 映画館があるアイサンビルの設立時は、1階がパチンコ屋、2階に“日劇”、3階に“日劇3”と成人館“刈谷小劇”の3館が入っており、5階にはサウナがある複合型娯楽施設として多くの利用者で賑わっていた。「設立当時は映画館にお客さんが詰めかけて立ち見になるのは勿論、中に入る隙間すら無いという事なんか珍しくなかったんだけどね」と当時を振り返るのは、現在は会長の堀部俊仁氏。

 昭和40年代後半と言えば、邦画の斜陽化が囁かれる一方で、ハリウッド映画は次々とヒット作を連発していた時代だ。また、映画館も生き残りをかけて、成人映画への転換や遊戯施設を併設するなど様々な施策を打ち出していた。昭和29年に堀部氏のお父様が刈谷市内で洋画専館の映画館を始めたのが「刈谷日劇」の前身となる。映画館開業時には『ローマの休日』を上映し、大好評で地域に迎えられた。映画が庶民の娯楽の中心だった戦後間もない頃、見たこともない西洋の文化がスクリーンに映し出されると、遠く離れた異国への憧れを観客は胸に抱いていた時代だ。

 日本映画全盛期を経て国内の映画産業が活気に溢れていた当時は、刈谷市内に東宝・松竹の上映館“刈谷映画劇場”と東映・日活の“大黒座”といった邦画専門館が存在しており、各劇場が上手く共存していた。街で唯一の映画館となったコチラを訪れるのは「映画を観るならココ!」と地元に住む年輩の常連さんや、洋画邦画を問わず、こだわりの作品を観に来る愛知県内からのお客さんが中心だ。

 やはりトヨタグループのお膝元だからだろうか、完全な車文化が色濃い三河地区では、車で行けるシネコンに観客を持って行かれてしまうのが一番の悩みだという。「確かに色々と厳しい時代ですけど、父が愛した映画館ですから、そう簡単に辞めるわけにはいかないですよ」と堀部氏は笑う。シネコンができる前は『タイタニック』に多くの観客が連日列をなしてロングランのヒットを記録した他、昭和58年に公開されたヘラルド配給の『南極物語』には場内に入りきれないほど多くの観客が押し寄せた。「どちらの作品も、こんな長い映画に人が入るのかな?と最初は半信半疑だったのですが、逆に自信を持っていた作品が入らなかったり…不安に思っている作品の方が入るようだね(笑)」

 とにかく、みんなが喜んで観に来てくれれば、それで良いから…という思いで始められたという毎日実施されている割引サービス。昔から「映画を観るならばココじゃなきゃ」というお客様が楽しみに訪れてくれるのが何よりもありがたいと語る。創業時から洋画専門に上映されてきたため、ハリウッドの大作時代と呼ばれる昭和40年代後半から50年代に最盛期が訪れる。その後、2~3階をパチンコ・スロットフロアに改装して、サウナだった5階に2つの映画館を移設したのは約20年ほど前。受付でチケットを購入して、広めのロビーで上映までの待ち時間を過ごす。向かって左手が「スクリーン2」、右手が「スクリーン1」の両スクリーン共に小さいながらもスタジアム形式を採用しており、どの席に座っても前列を気にせず観賞できるのがありがたい設計だ。

 珍しく床が板張りとなっており、ナチュラルな色調が目に優しく、落ち着いて上映までの時間を過ごせる。座席数が少ない館内を生かして、音響にこだわっているのも大きな特徴で、ライブハウスのような小さな空間での音響を劇場でも体験することができる。この特性を活かした音楽映画もプログラムの柱となってきていて、2019年前半は、往年のロックバンドQueenを描いた『ボヘミアン・ラプソディ』など多くのお客さんが楽しんでいた。また、大都市のシネコンとは違い、番組編成の自由度が大きな特徴でもある。最近では、ヒット作の監督した最新作と同時に、メジャーになる前の作品を同時上映するなど、特集上映や企画上映で大きく特徴を打ち出している。

 映画作品のデジタル化にともない、洋画邦画問わず、良質の小規模作品がたくさん生まれている現状は、刈谷日劇さんのような映画館にとっては大きなプラスになっており、シネコンで上映が終わった後に、SNSやネットで火がついた作品をフォローして、地域のみなさんに観てもらうのもスマッシュヒットにつながっている。良質な洋画作品はもちろん、ヨーロッパの現在の作品、ボリウッドの良作、ファッションやサブカルチャーのドキュメンタリー作品、シネコンでかかった作品だけど実はミニシアター向きの良品、韓国や香港、台湾などの東アジアのヒット作品など、多くのジャンルの作品で映画ファンの心を掴んでいる。多種多様なジャンルの映画を観て、世界のいまの出来事をリアルタイムで知ってもらい、考えるきっかけになったらとの思いで番組編成をしているそうだ。

 一度閉館してしまった街の映画館は元に戻らない…そうして映画館が消えてしまった光景は、ここ数年アチコチで見られている。「街から映画の灯を消してはならない。そのためにもできる限り頑張りますよ」と最後に述べられた言葉が深く心に残った。


出典:映画館専門サイト「港町キネマ通り」
写真提供:刈谷日劇

語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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