岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

theater somewhere

流浪の映画青年が作り上げた北の映画館

2020年04月15日

シネマトーラス(北海道)

【住所】北海道苫小牧市本町2-1-11 苫小牧中央ボウル1F 
【電話】0144-37-8182
【座席】40席

 札幌から快速を乗り継いで1時間足らず…苫小牧駅のホームからは、王子製紙工場の煙突からもくもくと白い水蒸気が湧き出るのが見える。苫小牧市は、豊富な水と木材資源に恵まれたことから製紙工業の街として栄えてきた。高度経済成長期を境に人口は年々増え続け、現在は17万を超える道内4番目の規模を誇る工業都市となった。そんな街にミニシアター「シネマ・トーラス」が誕生したのは、今からちょうど20年前のこと。

 代表の堀岡勇さんは10代から自分で撮った8ミリ映画をリュックに詰め込み、片手に映写機を抱えながら北海道各地を自主上映の旅をしていた人物。函館を皮切りに小樽、旭川、富良野、深川、北見…と、その街の喫茶店に飛び込みで「今夜、8ミリ映画会をやりませんか?」と上映場所を自らの足で売り込んでいた。そして、21歳の時に小樽で映画を撮りながら幻視舎というシネマテークを立ち上げ、ジャン・コクトーやカール・ドライヤーなどの前衛映画やアンダーグラウンド映画を上映していた。多くの文豪や映像作家が愛した古き良き時代の面影が残る小樽に、堀岡さんは遠く離れた故郷の原風景を重ね安らぎを感じていたという。「小樽は雪が多くて冬は仕事が無くなるのですが、ツケでお酒が飲める街で、映画を撮る仲間も増えたので楽しかった」と当時を振り返る。

 その後、苫小牧に移り小さなライブハウスのような場所を借りて寺山修司監督の『田園に死す』などの上映活動を行うと、多くの観客が来場。その内ここでも仲間も増えて、自主上映グループ「シネマ・トーラス」を立ち上げると、翌年には市内の映画館を借りて「苫小牧映画祭」を開催するなど活動の場を広げていた。そんな映画祭と自主上映会を続けて15年が経った頃、何か新しいことをしたいと考えていた堀岡さんは常設映画館設立に向けて動き出した。ところが、肝心の資金はほぼゼロの状態。賛同してくれた数人のメンバーと共に、早々に郵便局の跡地を見つけて契約も済ませると、まだ改装もされていない場所にパイプ椅子を並べて自主上映会を開催した。その度に来場者に向けて、ここが映画館になる事をアピールして、チラシを配って出資金を募ると何と500万円以上が集まった。こうして設立の見通しが立ち映写機も中古で購入して、足りない分は郵便局で使っていたカウンターや椅子、テーブルを再利用して、館内の塗装など自分たちでできることは全てやった。そして遂に、1998年3月、『ブエノスアイレス』と『ウォレスとグルミット』をこけら落としでオープンした。

 家族的な暖かみと地方ならではの見応えのあるラインナップの映画館を目指して、上映作品も単館系だけに偏らず、メジャー作品も混在させて、幅広い層に対応した。住民たちの生活導線にある繁華街から離れた場所を選んだ理由もそのひとつ。映画館に来る事は特別なものではなく、日常生活の延長線上でありたい…それが「シネマ・トーラス」の基本理念となった。ちなみに最近までヒット作のトップが『エクソシスト ディレクターズカット版』だった。「苫小牧は札幌と違って都会ではないので、住んでいる人たちにとって敷居が高い映画館では厳しいと思ったんです」普段シネコンに行く人たちにも来てもらいたいから…と、作品を限定せずに柔軟性を持たせた成功例と言えるだろう。


出典:映画館専門サイト「港町キネマ通り」
取材:2019年5月

シネマ・トーラスのホームページはこちら
https://cinema-taurus.info/

語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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