岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

theater somewhere

戦後の港町横浜で湾岸労働者たちに愛された二番館

2021年06月09日

【思い出の映画館】かもめ座(神奈川県)

【住所】神奈川県横浜市中区宮川町2-36
【座席】 177席
※2002年11月10日をもちまして閉館いたしました

横浜市にあるディープな街・日ノ出町に1館の名画座がある。昭和27年、港町にオープンしたその映画館は、横浜のシンボルかもめをマークにあしらって「かもめ座」と名付けられた。日の出町といえば、黒澤明監督の『天国と地獄』で刑事たちが山崎努演じる誘拐犯を追跡する黄金町の麻薬街のすぐ近く。ほんの十数年前まで物騒な町として敬遠されてきた場所だ。その界隈で、何とも愛らしいネーミングで地元住民に親しまれ続けて来たこの名画座も遂に2002年11月10日…創業50年の長い歴史に幕を降ろした。洋画一筋、一時期は洋ピンや一般映画と成人映画を週変わりで上映したりしていたが、ここ数年は洋画のアクション系2本立を2週間替わりで興行していた。

まだ映画興行が栄えていた昭和30年代はお客さんも多く、港に船が入港した時には、たくさんの船員が来場していた。高度経済成長期には、日雇の労働者が雨で仕事が無い時の良い暇つぶしが出来る場所にもなっていた。長年、受け付けと売店販売業務に従事して数多くの映画館に訪れるお客さんを見続けてきたおばちゃんが閉館する最終日にしみじみと語る。「やっぱり時代の流れだね、年輩のお客さんばっかりが多くなって…若い人はあまり名画座で映画なんか観なくなってきたから。最近はいつも同じ顔ぶれですよ」また、閉館を決めたのは、老朽化も激しくなってきていたという理由もあった。以前から改装して続けるかどうするか…という話しは出ており、お客さんも減ってきた事から閉館に踏み切ったという。「大体、あんまり配給会社もうちみたいな小さな名画座に映画出すのも嫌がるしさ、作品を選ぶのだって一苦労なんだから」と笑う。

客層は地元の男性客が中心となっており、もう映画も始まっているというのに映画はそっちのけで、常連の顔見知り同士で話しに興じたり、劇場の従業員とおしゃべりをしたり…映画を観に来たのか、おしゃべりをしに来たのかわからないのだが、映画館が近所の人々の社交場となっている珍しい劇場だった。銭湯も少なくなり、年輩の方が気軽に立ち寄れる息抜きの場がこの「かもめ座」だったのかも知れない。最後を飾った作品は青春映画『クールボーダー』とベトナム戦争に向かう若者を描いた『タイガーランド』で、どちらもB級映画だ。こういったごった煮感覚の作品選びが何とも言えない味だった。

昔から変わらない窓口でチケットを購入する。ロビーに入ると一番最初に目に飛び込むのが壁に掛けられた大きな時計だ。劇場の歴史と共に時を刻んできたこの時計も「かもめ座」のシンボルでもあった。場内のドアは赤い皮張りで小窓から場内の様子が分かるようになっている。場内は昔の造りだからだろうか、天井がとても高く、17年前から閉鎖されている2階席があるためスクリーンが高く前列の客の頭で観えにくいという事は少なかった。毎回、上映の合間にスタッフが丁寧に場内の掃除をしているおかげで場内はゴミが目立ったためしがない。たまに男性客を狙った同性愛者のチカンもいたりして映画を観ていると隣からそっと手が伸びてくるハプニングも体験した。そんな場内に設置された赤いビニール合皮製の座席は昔の姿を残したまま閉館される。冬になると暖房が効き過ぎてよくお客さんから「暑い」と苦情を言われる事も多かったというが、今となってはそれも懐かしい思い出となった。

ロビーには煙草の自動販売機が置いてあるが、それも昔の映画館の流れ。昔は劇場内でもプカプカ平気で煙草を吸っていたものだ。それも当時としては当り前で、時代の波と共にそういった習慣は消えていった…かと思いきや「かもめ座」では、未だに場内のアチコチでポッとライターの火が…。それもココの風物詩だった。休憩時間のロビーで常連とおぼしき男性客がおばちゃんに「来週は何やるんだい?」と尋ねていた。おばちゃんは掃除の道具をしまいながら「何言ってんだよ、もう明日からこの劇場はなくなっちゃうんだよ」すると「えぇ、何で?」と驚く客に対して「あんたらみたいに何度、ゴミを床に捨てるなとか場内で煙草吸うなって注意しても聞きやしない客ばかりだからやめるんだよ!」と笑顔で返す姿が印象に残った。


出典:映画館専門サイト「港町キネマ通り」
取材:2002年11月

語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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