岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

theater somewhere

白壁土蔵の城下町にある街なか映画館。

2022年12月28日

シネマエポック(鳥取県)

【住所】鳥取県倉吉市山根557-1 パープルタウン3F 
【電話】0858-48-9050
【座席】3スクリーン 362席

初めて鳥取県を訪れたのは2017年の夏。中国地方の映画館を取材するため姫路からバスで鳥取入りをしたのだが、市内で一番最初に目にしたのが、バスの窓から見えたスターバックスだった。その数年前に鳥取県知事が述べた名言「スタバは無いが、日本一の砂場はある」の通り、鳥取は全国展開していたコーヒーショップ唯一の空白地帯だった。それを逆手に取った自虐的発言のおかげで2015年にオープン。当時、県外からもわざわざ来店する客も混じって大盛況だった様子が報道されていた事を思い出す。知事の言う日本一の砂場とは言わずもがな鳥取砂丘。砂丘で思い出すのはシリーズ44作目の『男はつらいよ 寅次郎の告白』だ。本作では寅さんが伯父さんらしい頼もしいところを見せる。家出した泉を心配して鳥取に来た甥の満男と再会の橋渡しをする場所が砂丘だった。

その前日に寅さんと泉がバッタリ出会ったのが、白壁土蔵の城下町として知られる風光明媚な倉吉市だ。鳥取駅から鈍行列車で1時間。鳥取駅前の商店街を散策してお昼過ぎのJR山陰本線に乗る。市街地から出るとしばらくは海沿いを走る。紺碧の日本海が美しい。泊駅を過ぎると電車は山間部に入り長閑な田園風景が続く。倉吉の手前の松崎駅には東郷温泉という小さな温泉街がある。駅から数分のところには東郷池という周囲が10キロ以上もある汽水湖(名前に池とあるが属性は湖に分類される)があって、中心部の湖底から温泉が湧き出ているのが珍しい。そのため外気が下がると湖面から薄らと湯気が立ち湖全体が幻想的な雰囲気に包まれる。倉吉駅に降りると有名な観光地の割に駅前は意外と賑やかではない。むしろ人通りも少なく寂しささえ感じる。オフシーズンだからと思ったら違った。街の中心は駅からバスで20分程の離れた場所にあって、市役所、図書館などの公共施設や繁華街はその周辺に集中している。観光地の白壁土蔵群がある打吹玉川地区もこの辺りだ。ちなみに市役所を設計したのは、かの丹下健三で国の登録有形文化財に指定されている。

映画の中では、泉が偶然立ち寄った駄菓子屋のお婆ちゃん(常連の杉山とく子がイイ味を出している)に頼まれて豆腐を買いに行った帰り道で、寅さんを見つけて思わず抱きつくシーンが撮影された。抱きついた反動で豆腐の入った鍋が堀に落ちて、下流で水遊びをしている子供たちの元に鍋が流れ着くのが、如何にも山田洋次監督らしいタッチでイイ。鯉も泳ぐ堀は倉吉の原風景であり、こうした昔から変わらない営みに溶け込んだ街並みに惹かれ、多くの観光客が訪れているのだ。劇中に登場した駄菓子屋「ふしみや商店」だが、パンフレットによると撮影で使われていたのは映画用に改装したもの。空家だったところに美術スタッフが陳列棚や玩具を東京から持ち込んで作り上げたというのだからプロの仕事ぶりに改めて感服する。ちなみに地元の子供たちは堀で水遊びなんてしないそうで、これは映画だから許される嘘である。

駅から南へ真っすぐ延びるメイン通りを15分ほど歩くと、市民の生活拠点であるショッピングセンター「パープルタウン」が見えてくる。人形峠が開通して山陰と山陽の往来がより便利になった昭和56年に開業したという。こちらの施設内に地元住民に愛される市内に唯一の映画館「シネマエポック」がある。映画館がオープンしたのは施設の大規模リニューアルが行われた平成8年。正面の外壁に大きく掲げられたブルーの看板を目印に3階に上がる。エントランスをくぐると想像もしなかった明るく開放的な吹き抜けのロビーが広がる。今まで日本各地の映画館を巡って来たが、その中でも珍しい作りの設計だと思う。丁度、ポップコーンマシーンいっぱいに出来上がったばかりのポップコーンの香りがロビー全体に漂う。

「シネマエポック」はロビーを中心に3つのスクリーンで構成されている。ワンスロープの場内は天井が高く、奥行きがあるのでスクリーンが大きい。シートに腰を下ろすと座面の角度がスクリーンに対して丁度良い位置なので、どの席からでも観やすい。お客さんは地元の方が中心で、昔ながらの常連さんには洋画好きの方が多いという。平日はシニア層、夏休みや春休みには家族連れが目立つ。社会現象となった『妖怪ウォッチ』の公開時は朝から全ての回が満席となり『千と千尋の神隠し』以来の入場者数だったという。シネコンよりも気軽に立ち寄れる雰囲気があるからだろうか、顔なじみの常連さんも多く、待ち時間にスタッフと談笑する光景も見られる。

最近の若者は洋画を観なくなり字幕版よりも吹替版の方が求められるようになったと、よく耳にしていたが倉吉でも同じ状況らしい。それでも思いがけない映画がヒットする事もあり、土屋太鳳と山崎賢人主演の『orange オレンジ』には、あまり映画館に来ない中高生が大勢押し掛けてスタッフを驚かせた。かと思えば自信を持って選んだ作品が期待に反して全然入らなかったり…それならば「これは?」と思える作品やサービスなど「シネマエポック」では、やれることは積極的に取り入れるようにしているという。時には常連さんからも「こうした方が良いのでは?」とアドバイスを受けることもあり、それが街なか映画館の良いところだ。


出典:映画館専門サイト「港町キネマ通り」
取材:2017年7月

「シネマエポック」のホームページはこちら
https://www.purpletown.com/cinema

語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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