岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

theater somewhere

明治44年の建築当時のまま…登録有形文化財の映画館

2019年01月16日

高田世界館(新潟県)

【住所】新潟県上越市本町6-4-21
【電話】025-520-7626
【座席】200席

 東京から北陸新幹線で2時間ほど…新潟県の上越妙高駅から妙高はねうまラインという二両編成のローカル線に乗り換えて、高田という小さな街に降りる。隣町は森鴎外の「山椒大夫」の舞台として有名な直江津だ。晩夏の車窓から、黄色く色づき始めた稲穂が見える。

 豪雪地帯として知られる高田は、江戸時代に松平忠輝が築いた高田城の城下町として栄えた。まっすぐ伸びる駅前通りを歩く。街を南北に走る儀明川を渡ると、かつて街の中心部であった本町通りに突き当たる。ここは、江戸時代から明治時代にかけた近代日本の歴史的建造物が建ち並ぶ、雪国特有の風情ある雁木造りの商店街だ。そこから少し進むと、明治44年建築の映画館「高田世界館」が昔と変わらぬ姿で佇んでいる。

 街並みと調和したモダンな洋式建築の建物は、完成当時「白亜の洋館現る」と話題になった。大正5年には、館名を「世界館」と改称して、芝居小屋から日活映画を中心に上映する常設映画館となる。「高田世界館」が昔の姿で残っているのは、高田が比較的戦災が少なかったからだ。

 いち早く復興を果たすと洋画も上映するようになり、戦時中アメリカ文化に触れることがなかった市民の前に、豊かな欧米文化が次々と映し出され、連日満員の賑わいを見せていた。しかし、昭和40年代に入り、日本映画の斜陽と共に観客も減少を続け、昭和50年代には成人映画館として厳しい時代を乗り越えた事もあった。

 表通りから長い回廊を渡って、木製の扉を開ける。まだ開場前だというのに、薄暗いロビーでは映画を楽しみにする気の早い地元のお客さんが数人待っていた。場内清掃をしていたスタッフが慌てて出て来ると「あぁ、来た来た」と、待ってましたとばかり、ガラスで仕切られた窓口でチケットを購入してお気に入りの席に向かう。勝手知ったる映画館で毎朝見られるいつもの光景だ。

 二階席のある場内は広くて、夏だというのにヒンヤリとした空気が流れる。芝居小屋だった頃の名残りで、二階席の左右は前方へ迫り出した桟敷席となっており、最後尾にある映写室からは、フィルム映写機のカタカタと鳴る音が心地良く響く。

 中越沖地震によって営業が困難になるほど雨漏りが激しくなり、一度は廃業を検討した事もあった。その時、この歴史ある映画館を残して欲しいと願う人々が様々な応援イベントや自主上映会を開催。平成21年には市民有志からなる「NPO法人 街なか映画館再生委員会」が結成され、個人オーナーからNPOによる運営となる。同年、「高田世界館」は近代化産業遺産に認定された。更に平成23年に国の登録有形文化財に登録されると、この小さな街の映画館に注目が集まった。

 街の人たちの寄付のおかげで、少しずつ修繕が行われ、今では現役で営業する日本最古の映画館として、映画の他にも寄席やライブなどを開催して幅広い年代の人たちに支持されている。


出典:映画館専門サイト「港町キネマ通り」
取材:2016年8月

語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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