岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

theater somewhere

かつて東洋一の撮影所があった街に復活した映画館。

2022年09月28日

宝塚シネピピア(兵庫県)

【住所】兵庫県宝塚市売布2-5-1 ピピアめふ5F 
【電話】0797-87-3565
【座席】2スクリーン 各50席

チョコレート色のレトロな阪急電車が走る宝塚駅には、宝塚歌劇の聖地「宝塚大劇場」がある。ちなみに私は学生の頃、日比谷にある「東京宝塚劇場」でアルバイトをしていた。本当は東宝の映画館で働きたいと応募したのだが、配属されたのは映画館ではなく歌劇の劇場。その時は、長続きしないだろうと思っていたのだが、結局、卒業まで勤め上げてしまった。月組の『ガイズ・アンド・ドールズ』(言わずもがなマーロン・ブランド主演のミュージカル映画『野郎どもと女たち』の舞台化)で、大地真央のカッコよさに感動して、大学3年の夏には、とうとう「宝塚大劇場」を訪れるまでになった。当時は宝塚ファミリーランドの中に劇場があったので、観劇料の他に遊園地の入園料も払わなくてはならない事に何よりも驚いた。

宝塚を語る上で欠かせないのが「宝塚映画」だ。歌劇団の設立者・小林一三が、歌劇の中に映像を取り入れると打ち出して敷地内に撮影所を建てたのが始まり。東宝の傘下として、西の「宝塚映画」に対して、東の「東京映画」があり、それぞれ独自のカラーを打ち出していた。成瀬巳喜男監督の『放浪記』や、小津安二郎監督が珍しく松竹から離れて東宝で作った『小早川家の秋』など名作も多いが、私にとっての「宝塚映画」は、江利チエミ主演の『サザエさん』シリーズだ。今でも実写版がいくつも作られているが、やはり江利チエミのサザエさんがダントツだ。「宝塚調」と呼ばれるほんわかした雰囲気と漫画映画ならではのB級感が相俟って「東京映画」には無い持ち味を出していた。カラーになってから5本が作られている。

それから30年ぶりに宝塚を訪れた時、電車の車窓から見えた「宝塚大劇場」と周辺施設のメルヘンチックな変貌ぶりに驚いた。黄金期には映画館が5館あった街は、最後の映画館が閉館されて30年近く映画館空白地帯となっていた。「映画の街」だった場所に映画館が無い…関東で言えば蒲田と大船が正にそうだ。宝塚では市民の間で「街に映画館を」という機運が高まり、自主上映会が開かれていた。そんな矢先に、阪神淡路大震災が起きた。壊滅的な被害を受けた市は、震災復興事業として、宝塚駅から二つ隣にある売布神社駅前の市場跡地に、再開発ビルの建設を計画。有事の際には避難場所となる目的で「ピピアめふ」は建てられた。

文化事業に還元したいという市のコンセプトと、映画館を求める市民の思いが結合して、平成11年に公設民営映画館「シネ・ピピア」はオープンした。運営するのは大阪でミニシアター「シネ・ヌーヴォ」を経営する景山理さん。建設計画が立ち上がった時からアドバイザーとして関わってきた。避難所を兼ねているため、非常時には場内を避難所としても使え、断水になっても対応できるようトイレの水は地下水から汲み上げるなど震災の体験を活かした工夫が随所に取り入れられている。「税金を使っているからといって、経費を安く抑えた中途半端な施設にしたくなかった」という景山さんは、話題作だけではなく、なかなか観る事が出来ない良質の映画が観られる映画館にしようと、コンセプトから作品選びまで様々な提案を出した。

歌劇団がある宝塚市が「音楽のある街づくり」を推進しているため、音響設備にはこだわっている。スピーカーはすべてアメリカのメイヤー社によるコンサート用スピーカーを採用し、さらにメインスピーカーは音の反響を考えて純正コンクリートを駆体部分から設置、おかげで高低部の音質が従来の倍以上となる国内トップクラスの音響効果が実現したのだ。座席の配置は場内のどこからでも観やすいように調整された。映写もデジタルの他に35ミリフィルムの上映が可能で、名画座宣言をしてからは往年の名作を上映する機会も増えて、フィルム映写機が活躍している。また、毎年秋には市民有志による「宝塚映画祭」の会場となっており、「宝塚映画」の名作上映ではDVD化されていない旧作と出会える。まさに「映画の街」ならではの映画館となった。

近隣のお客さんが多い事から、ご当地映画の『阪急電車 片道15分の奇跡』は大ヒットを記録。この時、売店で販売されていた阪急ホテルが作った阪急電車のパッケージに入ったドーナッツが瞬く間に売り切れた。阪急電車に乗って映画を観に来て、阪急電車に乗って帰る…映画と現実がつながる感覚を味わえる奇跡があるから映画というのは面白いのだ。映画館に併設されているカフェ(その名も「バグダッド・カフェ」!)と、ホワイエは市民交流の場として活用されており、毎月開催される「シネマルシェ」(現在、コロナ禍により休止中)という市場には毎回多くの人が訪れている。勿論、映画を観なくてもカフェを利用したり、晴れた日にはテラスで読書に興じるのも自由。このように思い思いに映画館というスペースを使っている人たちを見ていると、街にとって大切な場所がココにあるように感じた。


出典:映画館専門サイト「港町キネマ通り」
取材:2013年8月

「宝塚シネピピア」のホームページはこちら
http://www.cinepipia.com/index.html

語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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