岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

theater somewhere

晴れた日には富士山が見えるロビーがあるシネコン。

2023年05月17日

シネシティザート(静岡県)

【住所】静岡県静岡市葵区鷹匠1-1-1 新静岡セノバ9F
【電話】054-253-1500
【座席】10スクリーン 1921席

10年程前まで静岡市内には東海道随一を誇る映画街があった。静岡県庁から真っ直ぐ伸びる七間町にあった「七ぶらシネマ通り」という愛称で親しまれていた通りである。駿府城公園から安倍川餅で有名な安倍川方面へ走る七間町通りは、東海道へ繋がる場所であったため、昔から人々が多く行き交う街の入り口でもあった。明治時代から活動写真や芝居小屋、寄席、飲食店、遊技場が軒を連らね、昼夜を問わず賑わいを見せていたという。戦後の映画黄金期には、大正8年に創業した静活が運営する映画館が建ち並び、「銀ぶら」ならぬ「七ぶら」というローカルな流行語まで誕生した。その語源は、多くの人々がここを訪れ、ぶらぶらと歩きながら映画に興じていた事に因る。現在は新静岡駅再開発計画により「七ぶらシネマ通り」にあった映画館は閉館。通りの様子もかつての映画街を思わせる痕跡は見ることも無くなった。

平成23年10月5日「七ぶらシネマ通り」にあった映画館は静鉄清水線の新静岡駅にリニューアルオープンしたファッションビル「新静岡セノバ」の最上階にシネマコンプレックス「シネシティ ザート」として生まれ変わった。再開発の計画が上がった時は、長年、七間町に愛着を抱いて来た地元の人たちから「出て行かないで欲しい」という声がたくさん届き、遂には「七間町からの映画移転反対運動」まで起こったという。しかし、七間町でこのまま老朽化した映画街を存続する事と、県外から大手シネコンが参入する事を天秤に掛けると、移転という苦渋の決断を下さざるを得なかった。通りを上げて行われた最終興行は「シネシティ ザート」がオープンする3日前まで行われ、最後に上映された木下恵介監督作『二十四の瞳』には300人以上もの別れを惜しむファンによる行列ができた。新設するシネコンのオープン準備と長年親しまれて来た映画街のクロージングを同時並行で進められたため、長年勤められてきたスタッフも感傷に浸る暇はなかったそうだ。

オープン当初は、シネコンの指定席に馴染めない方や、以前は入換もなく場内に一日中ずっといられて、途中からでも入場も出来たのに…と言われるお客さんも多かった。子供の頃から「七ぶらシネマ通り」で映画を観て育ったというスタッフが、そうしたお客さんの気持ちを汲んで、ひとつひとつ丁寧に対応されたという。おかげで昔からの常連さんも足を運んでくれるようになり、「駅前になって良かった」という声も寄せられるようになった。特にバスの利用者が多くを占める静岡県民にとって、バスターミナルに直結しているため利便性が良くなったと高い評価も得られており、そのおかげで現在では県内でも入場者数は上位を占めている。また、アニメにも力を入れており、コアなプログラムが評価されて、広域から多くのリピーターが訪れるようになった。

エレベーターを降りると目の前には、壁面が全面ガラス張りとなっている円形のロビーが広がる。家族連れやお年寄りを念頭に置いて設計されているので、一般的なシネコンと比べても外の陽射しを取り込む明るい雰囲気が大きな特長だ。晴れた日には富士山が一望出来る素晴らしいロケーションが広がっているので、待ち合わせや上映までの待ち時間に外の景色を眺めていると、あっという間に時間が過ぎてしまう。県民の方には富士山は日常の風景だろうが、やはり外から訪れた私にとって、富士山のある風景は特別なものである。こちらには通常のサービスデー以外に、ルルカ・メンバーズデーという割引料金がある。ルルカというのは静鉄が発行しているカードの名称で、静岡県民の生活拠点となっている静鉄ストアで昔から使われており県民の所有率は高いという。こうした地元企業と連携したサービスの拡充がリピートにつながり、映画を観た後に食事や買物をして帰るという相乗効果が生まれた。交通・買物・娯楽を駅ビルに集約させた事で、利用者が駅をただの乗換ポイントとして通過するのではなく、ちょっと寄り道をしたくなる魅力のある施設となったのだ。
※「七ぶらシネマ通り」は次回ご紹介いたします。


出典:映画館専門サイト「港町キネマ通り」
取材:2014年9月

語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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