岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

theater somewhere

体を包み込む音にこだわったバリアフリー映画館

2022年03月09日

シネマ・チュプキ・タバタ(東京都)

【住所】東京都北区東田端2-8-4 マウントサイドTABATA 1F
【電話】03-6240-8480
【座席】20席

City Lights(シティ・ライツ)という団体がある。団体名はチャップリンの『街の灯』から来ている。盲目の少女のために放浪紳士チャーリーが献身的な愛情を注ぐサイレント映画の名作だ。その名が示す通り、視覚障害の人たちにも映画を楽しんでもらいたい…という思いから2001年4月に立ち上がったバリアフリー映画観賞推進団体である。その活動のおかげで、視覚的情報をナレーションで補う音声ガイドが多くの映画館に導入され、目の不自由な人たちも映画を楽しめるようになった。「諦めていた映画をテレビの副音声のように観る事が出来たら嬉しい」と視覚障害者の方々から寄せられていた声に、「バリアフリー映画祭」を毎年開催していた平塚千穂子さんが、東京の田端に日本初となるバリアフリー映画館「シネマ・チュプキ・タバタ」をオープンしたのは2016年9月1日。上映形態はセカンド上映が中心で、自分たちの目で観て良かった作品にこだわる。障害者に付き添われるガイドヘルパーさんが予定を組めるよう、スケジュールは余裕を持たせた月替わりにしている。

その趣旨に賛同する人たちからたくさんの寄付が集まり、音響をアニメ『ガールズ&パンツアー』で音響監督を務めた岩浪美和さんが手掛けた。兼ねてより緻密に計算して設計した音を忠実に再現してくれる映画館が少ないと思っていた岩浪さんは「目が見えない人たちにとって音が命。だから音にこだわった映画館を作りたい!」という平塚さんの思いに共感して、立体的な音を作る様々なアドバイスを提供してくれた。更に音響メーカー各社の協力によって、360度の全方位から音が柔らかく包み込んでくれるような夢のようなサウンド空間が誕生した。その名も「フォレストサウンド」。森の中で映画を観ているような音を目指して、疲れを癒してくれる心地良い音響を実現した。

きめ細かい音を追求するため天井には4つのスピーカーを設置。ドルビーアトモス対応の7.1.4チャンネルの場内は、まるで音がシャワーのように降り注ぐような不思議な効果を生み出している。壁面スピーカーの上には森の映画館らしく、鳥が巣を作っている演出を施す遊び心も楽しい。フランスから音響チームを招いて制作した河瀬直美監督の『あん』では素晴らしい音響をここで体感する事が出来た。全ての座席に登載されているジャックに、有線でイヤホンを直接つなげて音声ガイドを聴く事が出来る(飛行機の座席と同じ原理)ので、FMラジオのような無線特有のノイズが入る事なく、安定した音響が得られるのが最大の特長だ。また手元でボリュームも変えられるので、音が聴こえにくいという人にもクリアな音を提供してる。

私が強く共感したのは、ここには障害者割引は存在しないということ。そもそも映画館が障害者割引を設定している理由は、その施設で補えていない部分があるから。だから、この料金設定は「シネマ・チュプキ・タバタ」の自信の表れなのだ。障害者も健常者も誰もが同じように映画を楽しめる設備が整っているからこそ、割引という概念は必要がないのである。「障害は人ではなく環境が対応出来ないから障害になるのです」という平塚さんの言葉に大いに納得させられた。また、障害がネックになり就職出来ない事情がある方には「プア・エイド割引」を導入しており、受付で申請すればシニア料金で利用出来る。更にガイドヘルパーさんの料金も払わなくてはならない障害者への負担を少しでも減らすため「ガイドヘルパーパス」を提示すればヘルパーさんは無料で入場出来る。

ロビーの壁面いっぱいにイラストレーター根本有華さんが描かれた大きな樹のイラストが広がる。枝に付いている葉っぱには、映画館設立のクラウドファンディングに協力してくれた人たちの名前が記される。この樹は劇場名にある「チュプキ」の樹でアイヌ語で自然界にある様々な光を意味する言葉という。まさに自然の光に照らされたような柔らかな色彩で表現された樹のイラストからは生命力と希望が伝わって来る。休憩時間のスクリーンには「チュプキの一日」が投影され、BGMには小鳥のさえずりやカエルの鳴き声が流れる。上映までの待ち時間をゆったりと過ごせる心地よい空間だ。客席数が少ないため、せっかく来たのに満席で観れなかった…とならないために、電話予約も受けているのも嬉しい気配りだ。

「シネマ・チュプキ・タバタ」の2階には音声ガイド収録スタジオがあり、ここを活用して音声ガイド制作の講習会も開催されている。他にもイベントとしてユニークな企画上映会を催しており、中でも印象に残るのは絵画による心理療法を試みる女性医師を描いた『ニーゼと光のアトリエ』の上映時に開催されたライブペインティング。場内に大きなキャンバスを張って、イラストレーターの根本さん監修の元で観客に思い思いの絵を描いてもらったのだ。映画館を続けていると、健常者が知らない領域が障害者の皆さんにたくさんある事に気付かされるという平塚さん。もしかすると私たちが見えているスクリーンの枠を超えた想像もつかない世界が見えているかも知れない。だからこそ健常者の方もどんどん利用して欲しい…というのが劇場からの願いだ。ここは決して障害者だけの特別な映画館ではない。誰もがフラットに同じ映画を観て同じように感動出来る…まさしくそこにバリアフリー映画館の本質があるのではないだろうか。


出典:映画館専門サイト「港町キネマ通り」
取材:2017年3月

「シネマ・チュプキ・タバタ」のホームページはこちら
https://chupki.jpn.org/

語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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