岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

theater somewhere

入場する前から心がワクワクする…映画館が楽しい

2018年02月21日

八丁座(広島県)

【住所】広島県広島市中区胡町6-26 福屋八丁堀本店8F
【TEL】082-546-1158
【座席】壱:169席 弐:69席

 市の中心部に位置する八丁堀は、百貨店や専門店が軒を連ねる市内屈指の繁華街だ。その交差点に建つ老舗百貨店「服屋」の8階…エレベーターを降りると、松の廊下と呼ばれている巨大な襖が目の前に現れる。

京都東映撮影所で20年間、数々の時代劇で実際に使われていた映画史的価値のある逸品(最後に使用されたのは三池崇監督の『十三人の刺客』)だ。そんな江戸時代の芝居小屋をイメージして平成22年に設立された映画館「八丁座」のエントランスに立つだけで、胸が踊り、心がワクワクする。かつて松竹チェーンの「松竹東洋座」と「広島名画座」が閉館してから、2年間も手つかずのままだっただけに、映画館復活のニュースは映画ファンを喜ばせた。

 53帳のならび提灯が吊るされる場内は、快適さと楽しさを追求しており、客席の幅を通常より20センチ以上も広い贅沢なシートを採用。広島の家具メーカーの職人がひとつひとつ手作りで仕上げたソファーシートは抜群の座り心地だ。最後尾にはカウンター席や畳席を設けるなど、席を選ぶのも楽しくなる。また、スクリーンからの距離に合わせて座席の角度や高さを細かく調整しているのも見事だ。スクリーンの位置を若干低めにする事で、観客の視界に少しだけ人の気配が感じられるようにしているのも特長のひとつ。その効果なのか…ここでは比較的、笑いが起きやすいそうだ。
 広島が舞台の映画で思い浮かぶのは、こうの史代(アニメ『この世界の片隅に』のヒットも記憶に新しい)の原作を映画化した『夕凪の街 桜の国』だ。2部構成から成る本作は、終戦から13年…原爆スラムに生きる女性の短過ぎる生涯を、静かな怒りをもって描き上げた佐々部清監督渾身の傑作となった。太田川の河川敷で、恋人と弟に看取られて息を引き取る主人公・麻生久美子の素晴らしい演技に思わず鳥肌が立つ。劇中で「市民球場がもうすぐできる」というセリフが出てくるが、広島市民球場は、その役目を終えて55年後の2014年に解体された。
 もうひとつ、広島を舞台とした映画に黒木和雄監督の名作『父と暮せば』がある。ほとんどが室内劇なので広島の風景は出てこないが、その代わり原田芳雄演じる父親(…の幽霊)が作る広島の郷土料理でジャコ味噌という、すり鉢で擦ったジャコに味噌と唐辛子を混ぜた料理が紹介される。また娘の宮沢りえが、駅前のマーケットで買ってきた饅頭を分けるシーンがあるが、駅のすぐ近くに今も残る「愛友市場」だろうか?戦後の闇市から続く短い通りで、乾物屋やら生鮮食品を扱った店が軒を連ねている。この辺りもマツダスタジアムができてから様子がすっかり変わってしまった。

出典:映画館専門サイト「港町キネマ通り」
取材:2014年8月

語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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