この町で映画を観たいという島の人々の声で復活した映画館
2018年05月23日
本渡第一映劇(熊本県)
【住所】熊本県天草市栄町5-23
【電話】0969-23-1417
【座席】116席
終戦直後の昭和20年に「中央館」という館名で創業した「本渡第一映劇」は、本渡港の近くにある正真正銘の港町キネマだ。当時は3階席まである県内でも五本の指に入る大劇場だったが、現在の建物は昭和46年にバーや居酒屋が入る雑居ビルに改築した二代目になる。
最盛期は島内に4館あった映画館も次第に観客が減少して、昭和50年を境に次々と閉館してしまった。最後まで残った「本渡第一劇場」も平成元年に角川映画『天と地と』を最後に休館。そのまま再開する事なく閉館してしまうのか?と誰もが思っていた。
しかし、復活を願う現在、代表を務める柿久和範さんが持ち主に直談判して、3日間だけ映画館を貸してもらう事ができた。それが「天草シネマパラダイス」という上映会だ。久しぶりに島に映画の灯がともると、天草で映画を観たい…と同じ思いを抱いていた映画ファンが詰めかけ、盛況の内に幕を閉じた。
それから不定期ながらも自主上映会を開催。そのたびに有志のスタッフ全員でチケットを手売りした。時には、フィルムが間に合わず、八代港から船で運ばれてきたフィルムを柿久さんが港で待ち構え、ギリギリ映写機にセットすることもあったそうだ。その努力が実って、回を追うごとに立ち見が出るようになり、ついに平成10年より常設館として再開する事となった。
再開とひとくちに言っても休館の間、ロビーや場内には1年分の埃が溜まっていたため、修繕が柿久さんたちのライフワークとなった。こうしたスタッフの情熱に感化された常連さんも棚や手作りポスターを持ち寄り、いつしか映画を観るだけの場所ではない居心地の良い空間に生まれ変わっていた。手作り感に溢れたロビーで常連同士、映画の話に興じると時間はあっという間に過ぎてしまう。
左右が迫り出した桟敷のある2階席は、後ろの映写室からカタカタ…とフィルムを送る音が聞こえる映画ファンにとって特等席となった。この音を目当てに来るお客さんも多い。
出典:映画館専門サイト「港町キネマ通り」
取材:2010年4月
語り手:大屋尚浩
平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。
語り手:大屋尚浩
平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。
大小120余りの島々で形成されている熊本県・天草地方。昔は三角や八代の港から貨物船や客船が就航していたが、九州本土と島を結ぶ橋が開通してからほとんどの航路が廃止されてしまった。今回の旅の目的は、天草市に唯一残る島の映画館「本渡第一映劇」。島内には空港もあるのだが、急ぐ旅でもなかったので、熊本空港からレンタカーを走らせて、のんびりと島伝いに橋から見える春の海を楽しんだ。
早めに着いたので、今晩の宿・栄美屋旅館に荷物を置いて周辺を散策する。旅館の裏手に石造桁橋として国の重要文化財に指定されている「祇園橋」があった。天保3年に建造された橋が普通に使われていることに驚く。車を少し走らせると本渡海水浴場という小さな入り江を見つけた。湾内にあるため波が穏やかな海岸で、しばらくぼーっと海を眺める贅沢な時を過ごす。