岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

theater somewhere

観たい映画をかける映画館を地元に…一人の男が立ち上がった。

2018年12月12日

シネマテークたかさき(群馬県)

【住所】群馬県高崎市あら町202
【電話】027-325-1744
【座席】スクリーン1:58席 スクリーン2:64席

 東京からJR在来線で2時間弱、新幹線なら1時間足らず…群馬県最大の中核市・高崎市でオールロケを行なった石原さとみと柳楽優弥主演の青春映画『包帯クラブ』は、堤幸彦監督作品の小品ながらも最高傑作に挙げて良いだろう。

 ハンバート ハンバートの音楽をバックに、唐沢悟のカメラによって映し出される高崎の町…そこに石原さとみのモノローグが被さるオープニングは鳥肌ものだ。ここに登場する若者たちは、ひょんな事から、心に傷を負った人々を癒すため依頼された場所に包帯を巻いて回る。頼まれもしないのに。近くて遠い東京近郊にある冬枯れの街と真っ白な包帯のコントラスト…そして、街中を走り回る若者の躍動感が相まって爽やかな青春群像劇に仕上がっていた。

 高崎という街は昔から文化に対して寛容な街だと思う。戦後間もなく創立した高崎市民オーケストラ(現在の群馬交響楽団)を描いた今井正監督作品『ここに泉あり』でも紹介されているように、街の人たちが団員を温かく見守り応援する…そういう土地柄なのだ。

 昭和62年から続く「高崎映画祭」もまた、そうした高崎市民の気質によって育まれた映画祭かもしれない。当時、高崎では観る機会が少なかった単館系の映画を地元で観たいと、故・茂木正男さんが立ち上げた自主上映団体に端を発する映画祭も、いつの間にか30年以上も続いていた。しかし、どんなに映画祭が成功しても東京に比べて3分の1しか群馬では観られない現実に、茂木さんの頭の中には、ずっと映画館設立があったという。

 そして、映画館になりそうな物件をあちこち探し回って辿り着いたのが、閉店した支店銀行だった。資本金ゼロでスタートして、改装費の捻出にも苦慮していたところを助けてくれたのが、ずっと映画祭を支えてくれた市民の人たちだった。何と、寄付金が1000万円も集まったのだ。映画祭のスタッフが映写機やスクリーンを担いでいた姿を市民は見てくれていた。このエピソード…まさに『ここに泉あり』で描かれていた市民の姿ではないか。

 こうして平成16年12月、ミニシアター「シネマテークたかさき」はオープンした。しかしその3年後、スクリーンを増設して新たなスタートを切ったのを見届けるように、茂木さんは急逝してしまう。

 現在はそんな茂木さんの思いを引き継ぎ、映画祭を共に運営してきたスタッフが映画館を守っている。お客様も映画祭の根強いファンが多く、遠くは新潟や長野からも来られるとか。今まで、数多くの群馬で生まれた映画や、若手クリエイターの作品の紹介してきた。映画関係者の中には映画祭から応援してくれる人も大勢いる。ロビー壁面は、日を追うごとに舞台挨拶で来場されたゲストのサインが増え続けている。


出典:映画館専門サイト「港町キネマ通り」
取材:2015年8月

語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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