岐阜新聞 映画部

映画にまつわるエトセトラ

Rare film pickup

性差を感じることなく物語に溶け込む恋愛の形

2020年11月16日

日本映画の新たな局面を担う『BL映画』の存在

ゲイの映画はゲイの監督でなければならないという偏見じみた見識は、もはや全く通用しない

 今年のはじめに公開された今泉力哉監督の『his』は、同性カップルの別れと再生を描いた素晴らしい作品だった。恋愛映画の名手と言えど、ゲイの話を題材にすることには一抹の不安を感じていたのだが、それは見事に裏切られることになった。

 外国の映画監督には、ゲイであることを公表している人も少なくない。『ペイン・アンド・グローリー』のペドロ・アルモドバル監督、『ジョン・F・ドノヴァンの死と生』のグザヴィエ・ドラン監督はともに、ゲイであることをカミングアウトしている。『ポルトガル、夏の終わり』のアイラ・ザックス監督の前作『人生は小説よりも奇なり』(2014年/日本公開16年)は、39年間連れ添った同性カップルを描いており、監督もゲイであることを表明している。

 ゲイの映画はゲイの監督でなければならない、と言っているわけではなく、そういう偏見じみた見識は、もはや全く通用しないというのが本当のところだろう。

 日本が誇る漫画文化には、以前からBL =ボーイズ・ラブというジャンルが確立されていた。BLという呼び方がない時代には"やおい"という言い方が一般的だった。BLが主流になった今は、同性愛的な世界観を総称するような使われ方が多いようで、その定義は難しい。やおいの文化はコミックを超えて、様々なカルチャーに侵食している。

 今年はそのBLコミックを原作とした映画の公開が続いている。個人的な見解だが…ざわついている。

 『アルプススタンドのはしの方』を監督した城定秀夫監督の前作は『性の劇薬』で、原作は永田ゆき。『囀る鳥は羽ばたかない』は牧田佳織監督のアニメ作品で、原作はヨネダコウ。この2作の共通点はBLコミック原作で、映倫R18+指定の成人映画であること。セクシャルな描写が強調されるBLコミックは少なくない。

 9月に入って公開された『リスタートはただいまのあとで』は、ココミの原作をプロデューサーとして活躍していた井上亮太が長編第1作として監督したもの。東京での10年間のサラリーマン生活を見切り、故郷に戻って来た光臣(古川雄輝)と、農園を営む祖父の養子となった大和(竜星涼)との交流を描き、それぞれの再生の物語になっている。ゲイという設定を隠すことなく、ごく自然な形で物語に溶け込ませ、前記2作とは対照的な爽やかな清々しさに満ちたドラマとなっている。

 続いて公開されたのが、行定勲監督の『窮鼠はチーズの夢を見る』なのだが、これには驚かされた。もはや、BLとかゲイとかで括るようなことは無意味な思いに突き当たる。どうしようもなく、抜け出せない恋愛映画の形は、行定監督の前作『劇場』と同系なのだが、その完成度でははるかに上回る。

 今、BL映画は新たな局面へと進化を遂げている。

語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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