岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

theater somewhere

リンゴ畑の真ん中にあるシネコンで家族揃って。

2022年08月10日

シネマヴィレッジ8(青森県)

【住所】青森県つがる市柏稲盛幾世41
【電話】0173-27-5500
【座席】8スクリーン 1124席

コロナ禍になった最初の年は、映画館に掛かる映画と言えば、アニメや過去作品の再映ばかりだった。まともに制作進行が出来ない制限が続く中で、コツコツと映画を撮り続けてくれた映画人のおかげで、時には思いがけない素晴らしい作品と出逢える。本当にありがたい限りだ。青森県津軽地方で津軽三味線の大会で優勝する腕前を持ちながら、脚をおっ広げて演奏する姿が恥ずかしい(田中誠監督の『うた魂!』で夏帆が演じたコーラス女子と同じ思春期ならではの理由)からと、市内にあるアップルパイが売りのメイド喫茶でアルバイトする女子高生を描いた横浜聡子監督の『いとみち』もそうした映画の一本だ。タイトルの意味は三味線を弾く指に付く糸の跡「糸道」。練習しないと糸道が無くなり音が悪くなる。津軽三味線の名手であるお婆ちゃんが、練習を怠る孫を叱る時に津軽弁で指摘する。

主人公が暮らす場所が、JR五能線の弘前から五つ目にある「板柳」という小さな駅だ。青森県西部の日本海に面した津軽半島にある町で、南西部には岩木山を望み、そこから流れる岩木川の恵みによって水田が発達、津軽米の産地である。またここは日本最大のリンゴ栽培地で、列車の車窓からリンゴ畑があちこちに見える。というよりリンゴ畑の中を電車が走っている。劇中、ある事件により経営が苦しくなったメイド喫茶を助けるため、主人公が「リンゴなら家の近所にたくさんなっているからウチから仕入れてアップルパイを作ればイイ」と提案する。それくらい家の周りはリンゴ畑に囲まれている。この板柳駅からもう少し先に行ったところが、吉幾三のヒット曲「俺はぜったい!プレスリー」の歌詞にある五所川原だ。

駅からバスで数分揺られると、突然リンゴ畑の向こうに大きなイオンのショッピングモールが現れる。なかなかシュールな風景だ。「イオンモールつがる柏店」は、図書館が無かった町にカフェが併設された市立図書館が開館したというニュースで話題となった。ここを訪れたのは、11月も終わりに近い晩秋…バスを降りると痛いほど冷たい風が頬を刺す。岩木山と日本海に挟まれたこの地域は、冬になると平衡感覚が無くなる程の地吹雪が発生する有名な場所で、冬には雪が下から舞ってホワイトアウトになる程。それが物珍しくわざわざ体験しに訪れる人も少なくない。そこに地元の観光局が目をつけた。近くにある金木町では「地吹雪ツアー」なるものが人気を博しているそうだ。正直、北海道出身で過酷な冬を過ごしてきた私としては理解に苦しむ。

そんな四季折々、豊かな自然に恵まれたこの地に、シネマコンプレックス「シネマヴィレッジ8・イオン柏」がオープンしたのは開業翌年の1993年。青森市内で「青森松竹アムゼ」という映画館を運営する(有)シネマセンターに、「ショッピングセンター内に映画館を作りたい」という相談が持ちかけられたのが始まりだった。エスカレーターを2階へ上がると、スパイダーマンのコスチュームを彷彿とさせるデザインを施した天井が現れる。これは実に圧巻だ。広いロビーには本館との連絡通路が設置されているため、買い物帰りに立ち寄る女性客の姿も多く見受けられる。シネコンとしては珍しく年輩のお客さんが多いのはここの特長だ。年輩の男性客に人気がある作品は、『ジャック・リーチャー』や『ジェイソン・ボーン』といった洋画のアクションもの。夏休みや春休みシーズンになると子供を連れたファミリー層が多く見られるようになる。他にも青森県内でロケをされた『奇跡のリンゴ』や『ワサオ』といった御当地映画には、映画を盛り上げようと、地元の人たちが多く訪れるのも地方のシネコンならではだ。

つがるという土地柄か、農業に従事されているお客さんが多く、農繁期になるとロビーは閑散となる。それこそ家族総出で家の仕事を手伝わなくてはならないので、休日だからと言って映画を観ている場合ではないのだ。この時期は映画館から客足が遠のくため、動員数も都会の映画館と異なり、初日の土日なのに、どうしてこんなにお客さんがいないのか?都会とのギャップに配給会社の担当者は首を捻る事もあるという。農繁期が家族総出ならば、運動会だって家族・親戚総出。このような年中行事の時には、映画館に人がいなくなるのも「つがるの映画館あるある」だ。逆に、出稼ぎに行っていた男性たちが戻って来る正月には、家族みんなで久しぶりに映画…という光景も見られる。それでも近年は少子化の影響が深刻で、以前と比べて子供の数が少なくなっているという。数日前に初雪が降ったという晩秋のつがる。すっかり暗くなった帰りのバスの車窓から、ポツンポツンと遠くに見える家の灯りに、そろそろ私の実家でも冬支度を始めている頃だろう…と、思いを馳せた。


出典:映画館専門サイト「港町キネマ通り」
取材:2016年11月

「シネマヴィレッジ8」のホームページはこちら
https://www.cinemavillage8.com/index.html

語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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