岐阜新聞 映画部

映画にまつわるエトセトラ

Rare film pickup

シナリオ界の巨匠山田太一さんは亡くなっても、作品は残る!

2023年12月08日

私のベストワン脚本家、山田太一さん

ガードマンの吉岡司令補(鶴田浩二)が、求婚されたのにそれを断った理由を「恋人を争っていた特攻隊で死んだ親友の気持ちを思うと結婚できなかった」という説明に納得できない杉本陽平(水谷豊)が、「人間はわすれるもんでしょう?」と言うと吉岡はこう答える。

「忘れなきゃ嘘だって言うのか?お前らは、その調子で、なんにでもたかをくくってるだけだ。恋愛も、友情も、永続きすりゃあ嘘だと思う。人のためにつくす人間は、偽善者かバカだと思う。金のために動いたと言えば本当らしいと思い、正義のために動いたと言えば、裏になんかあると思うんだ。」

私が高2の冬に観た、NHKの土曜ドラマ「男たちの旅路」の第3話(猟銃)のセリフだ。物事に正面から対処しないで、皮肉な態度で臨むことを戒めている名セリフである。

山田太一さんが亡くなった。私が最も好きなシナリオライターであり、普段は映画の話が中心の映画仲間たちとも、山田さんのドラマだけは映画と同じレベルで夢中で語り合った。

四流大学在学中の仲手川(中井貴一)が、肥った女の子・綾子(中島唱子)と高尾山デートの最中に卑下して言う。「あんなにやったのにって思うけど、きっと顔のいい奴と悪い奴がいるみたいに、脳味噌も平等には出来てないんだよね。出来ないからって、努力してないわけじゃないんだけど」(ふぞろいの林檎たち~第一話学校どこですか?~より)。

山田さんのドラマの主人公は、主婦や老人、四流大学生など弱い立場の人間が多い。師匠の木下惠介監督のように、陽の当たらない地道な生活をしている人の気持ちを代弁してくれているのだ。

短くて濃密なセリフの応酬は心地よいリズムが生まれ、日常会話とは違うドラマの世界が展開する。優しさの中には人間の秘めた業が見え隠れし、しかしそれは燃え上がることなく弱火になっていく。

竹脇無我が八千草薫に「この電話を切って、何があるんです。いつもの通りの、日常があるだけじゃありませんか」(岸辺のアルバムより)、どこを切り取っても素晴らしいセリフばかりだ。

ドラマが主体ではあるが映画も10本近くあり、単独クレジット作品では何と言っても篠田正浩監督の『少年時代』(1990)だ。いつものセリフの応酬は少ないが、それは監督の裁量が大きい映画だからであり、逆に優れた構成力が際立っている。

山田さんは亡くなっても作品は残る!ご冥福をお祈りします。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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