岐阜新聞映画部映画にまつわるエトセトラ見つかった才能、城定秀夫 B! どんな作品でも面白くするその手腕 2023年02月22日 見つかった才能、城定秀夫 © 2020「On The Edge of Their Seats」Film Committee ©2022「銀平町シネマブルース」製作委員会 2020年、日本映画界はひとりの才能ある監督を発見した。その名は城定秀夫。「アルプススタンドのはしの方」がインディーズながら大ヒットし、その年のキネマ旬報ベストテンにも選出された。たちまち売れっ子監督となった彼はメジャーでも監督作を発表し、次々と作品が公開されている。でも私は思った。まさか城定秀夫監督作をシネコンで観る日が来るなんて、と。城定秀夫監督のデビュー作「味見したい人妻たち」は2003年公開でそのキャリアは20年近くある大ベテラン。監督作を追っていくとその“なんでも屋”ぶりに驚かされる。企画ものやインディーズの原作ものや漫画実写化など様々な作品がズラッと並ぶ。しかし、城定秀夫を語る上で絶対に外せないのがエロ映画。なんせピンク映画の助監督を経て、先に述べたデビュー作はエクセスフィルムの製作。そう、まさか監督作をシネコンで、とはそういうこと。私にとってはピンク映画や低予算映画で慣れ親しんだ監督なのだ。 彼の持ち味はどんな条件、どんな題材でも面白くできるということ。たとえどんな条件でも映画的興奮に満ちている。人物の動かし方、カット割り、カメラワーク、シナリオ、キャラクターのどれもがしっかり練られていて映画としての強度が高い。そのことは「方舟の女たち」を観てもらえれば良くわかる。この作品では3つのエピソードがラストに向かってひとつに集約されていく脚本のダイナミズムに圧倒される。その脚本を鮮やかに描いたカメラワーク、そして各キャラクターの描き分け。見事な娯楽映画になっている。他にも「舐める女」、「恋の豚」、「花と沼」などでみられる突飛なキャラクター造形を絶妙なバランスで成立させる手腕や「デコトラ・ギャル」でスピード感あふれる演出。汗や吐息、熱っぽさまで伝わってくるラブシーンの上手さやハッとするような鋭いカット繋ぎ。そのアプローチの的確さが映画としての面白さを支えている。 城定秀夫監督にはもうひとつの名前がある。それは城定夫。この名前のときは1日撮りだそう。基本的に1日~3日で1本仕上げてしまうというその早さには驚愕だが、作品を観ると随所にその工夫が散りばめられている。「妹が僕を支配する。」では部屋とボートのシーンがほぼすべて。時制を前後させながら少ないシチュエーションで巧みに物語を構成する。そしてカットを少なくしての長回し&単調さを避けるために動くカメラ。早撮りでも工夫次第で面白くなるのだ。 最後に、これは絶対外せない要素を述べたい。それはメガネっ子。すべての作品に登場するわけではないが、かなりの頻度で描かれる。大抵は満たされていないキャラクターが眼鏡をかけて登場し、鬱屈した感情や自己肯定感の低さが暴走することでドラマが展開する。そして彼女たちには温かい眼差しが向けられており、心地良いラストに着地することが多い。ぜひ城定秀夫監督作を観る際は魅力あふれるメガネっ子に注目してもらいたい。 と、ここまで述べてきた私もまだまだ未見作が多いのもまた事実。ここで紹介したのは私の観た一部の作品から感じた魅力をほんの少し述べたにすぎない。まだまだ発見できていない側面もあると思う。なんせ作品数が多いので大変だ。しかしその魅力にハマってしまった私は今日も監督作を追いかけている。 語り手:天野 雄喜 中学2年の冬、昔のB級映画を観たことがきっかけで日本映画の虜となり、現在では24時間映画のことを考えながら過ごしています。今も日本映画鑑賞が主ですが外国映画も多少は鑑賞しています。 ©2022「銀平町シネマブルース」製作委員会 100% 観たい! (9)検討する (0) 語り手:天野 雄喜 中学2年の冬、昔のB級映画を観たことがきっかけで日本映画の虜となり、現在では24時間映画のことを考えながら過ごしています。今も日本映画鑑賞が主ですが外国映画も多少は鑑賞しています。 2024年09月26日 / どら平太 日本映画黄金時代を彷彿とさせる盛りだくさんの時代劇 2024年09月26日 / 潜水艦コマンダンテ 誇り高き決断 助けを求める人はもはや敵ではなく、ただの人間だ 2024年09月26日 / 潜水艦コマンダンテ 誇り高き決断 海の男たちが下す決断を描くヒューマンドラマ more 2018年10月03日 / シネモンド(石川県) 加賀百万石の城下町から次世代の映像作家を 2019年05月22日 / ガーデンズシネマ(鹿児島県) 映画の後にランチをしながら、おしゃべりを楽しむ 2018年10月24日 / パルシネマしんこうえん(兵庫県) 神戸の下町で、館主こだわりの二本立てに興じる more
2020年、日本映画界はひとりの才能ある監督を発見した。その名は城定秀夫。「アルプススタンドのはしの方」がインディーズながら大ヒットし、その年のキネマ旬報ベストテンにも選出された。たちまち売れっ子監督となった彼はメジャーでも監督作を発表し、次々と作品が公開されている。でも私は思った。まさか城定秀夫監督作をシネコンで観る日が来るなんて、と。城定秀夫監督のデビュー作「味見したい人妻たち」は2003年公開でそのキャリアは20年近くある大ベテラン。監督作を追っていくとその“なんでも屋”ぶりに驚かされる。企画ものやインディーズの原作ものや漫画実写化など様々な作品がズラッと並ぶ。しかし、城定秀夫を語る上で絶対に外せないのがエロ映画。なんせピンク映画の助監督を経て、先に述べたデビュー作はエクセスフィルムの製作。そう、まさか監督作をシネコンで、とはそういうこと。私にとってはピンク映画や低予算映画で慣れ親しんだ監督なのだ。
彼の持ち味はどんな条件、どんな題材でも面白くできるということ。たとえどんな条件でも映画的興奮に満ちている。人物の動かし方、カット割り、カメラワーク、シナリオ、キャラクターのどれもがしっかり練られていて映画としての強度が高い。そのことは「方舟の女たち」を観てもらえれば良くわかる。この作品では3つのエピソードがラストに向かってひとつに集約されていく脚本のダイナミズムに圧倒される。その脚本を鮮やかに描いたカメラワーク、そして各キャラクターの描き分け。見事な娯楽映画になっている。他にも「舐める女」、「恋の豚」、「花と沼」などでみられる突飛なキャラクター造形を絶妙なバランスで成立させる手腕や「デコトラ・ギャル」でスピード感あふれる演出。汗や吐息、熱っぽさまで伝わってくるラブシーンの上手さやハッとするような鋭いカット繋ぎ。そのアプローチの的確さが映画としての面白さを支えている。
城定秀夫監督にはもうひとつの名前がある。それは城定夫。この名前のときは1日撮りだそう。基本的に1日~3日で1本仕上げてしまうというその早さには驚愕だが、作品を観ると随所にその工夫が散りばめられている。「妹が僕を支配する。」では部屋とボートのシーンがほぼすべて。時制を前後させながら少ないシチュエーションで巧みに物語を構成する。そしてカットを少なくしての長回し&単調さを避けるために動くカメラ。早撮りでも工夫次第で面白くなるのだ。
最後に、これは絶対外せない要素を述べたい。それはメガネっ子。すべての作品に登場するわけではないが、かなりの頻度で描かれる。大抵は満たされていないキャラクターが眼鏡をかけて登場し、鬱屈した感情や自己肯定感の低さが暴走することでドラマが展開する。そして彼女たちには温かい眼差しが向けられており、心地良いラストに着地することが多い。ぜひ城定秀夫監督作を観る際は魅力あふれるメガネっ子に注目してもらいたい。
と、ここまで述べてきた私もまだまだ未見作が多いのもまた事実。ここで紹介したのは私の観た一部の作品から感じた魅力をほんの少し述べたにすぎない。まだまだ発見できていない側面もあると思う。なんせ作品数が多いので大変だ。しかしその魅力にハマってしまった私は今日も監督作を追いかけている。
語り手:天野 雄喜
中学2年の冬、昔のB級映画を観たことがきっかけで日本映画の虜となり、現在では24時間映画のことを考えながら過ごしています。今も日本映画鑑賞が主ですが外国映画も多少は鑑賞しています。
©2022「銀平町シネマブルース」製作委員会
語り手:天野 雄喜
中学2年の冬、昔のB級映画を観たことがきっかけで日本映画の虜となり、現在では24時間映画のことを考えながら過ごしています。今も日本映画鑑賞が主ですが外国映画も多少は鑑賞しています。