岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

theater somewhere

地元の人たちの声に耳を傾ける地元密着のシネコン。

2024年05月27日

藤枝シネ・プレーゴ(静岡県)

【住所】静岡県藤枝市前島1-7-10 BiVi藤枝4F 
【電話】054-668-9511
【座席】7スクリーン・889席

静岡から東海道本線で20分足らず…静岡県の中核市でありベッドタウンとして拡大しつつある藤枝市は、再開発が盛んに行われ、複合施設が次々と建設されている最も勢いのある街だ。藤枝という地名で真っ先に思い浮かべるのが、池波正太郎が書いた時代小説「仕掛人・藤枝梅安」の主人公・藤枝梅安の苗字だ。出身地である藤枝から取ったというのは小説の中でに出てくる。梅安が幼い頃に妹と二人残して母親は出て行ってしまったという設定だ。藤枝は梅安が裏稼業をする舞台というわけではないのだが、藤枝市民が藤枝梅安という架空の人物に対して親近感を抱いているのはよく分かる。藤枝は東海道の宿場町・藤枝宿として栄えた街で、豊川悦司が梅安に扮した映画『仕掛人・藤枝梅安』が公開された際には舞台挨拶も行われた。

駅から歩いて2分ほどの場所にある商業施設「BiVi藤枝」の4階に静岡市に本社を置く老舗興行会社日映(株)が運営するシネマコンプレックス「藤枝シネ・プレーゴ」がある。2009年2月28日のオープン以来、休日ともなるとお年寄りから子供まで幅広い年齢層のお客様で賑わいを見せる地元密着型のシネコンだ。エスカレーターを上がるとロビー入口で等身大のハルクが出迎えてくれた。こけら落としで『おくりびと』を上映したおかげで、シネコンに抵抗感があるシニア層を取り込むことに成功。実は本興行が終わってフィルムが空いていたため上映を決めたところ…アカデミー賞を受賞したニュースが飛び込んできた。施設の前には長蛇の列が出来て、その混雑がずっと続いてしまい、他の作品を観に来たお客様から、いつになったらチケットを買えるんだ!とお叱りも受けたという。

その時に、シニアのお客様から、何故完全入替制なのか?とか、何故チケットの座席は英語で書いてあるのか?とか、最後はチケットの文字が小さくて読めないと想定外の洗礼を受けた。ただ、その指摘が今後の劇場運営の大きな参考になったのは事実だ。ロビーの日本語表記の案内看板を多くしたり、英語にフリガナをふるなど改善を繰り返した結果、自然とお年寄りに強いシネコンになったのだ。

静岡と浜松に挟まれている藤枝は、中規模クラスの作品は掛かりにくかったため、オープンからしばらくは通常のシネコンでは取り上げられないような作品も積極的に選択していた。何よりもこだわって続けているのがジョニー・トー監督作品。オープン時に『エグザイル絆』と『冷たい雨に撃て、約束の銃弾を』を上映した時は場内に観客は数人しかおらず、配給会社から、こんな数字は見たことが無い…とまで言われた事も。それでも継続して行く内に段々と入場者が増えていき、現在はすっかり名物企画となっている。先日も『ジョニー・トー涙の絆セレクション』と銘打って上映したばかりだ。

お客様の要望する話題作だけではなく、こういう映画もあるのだと紹介するのも映画館の役目で、藤枝のような地方都市だからこそ冒険も出来るのだ。今でも未公開の作品を発掘するたび上映の手を緩めることはないのだからファンにとっては何とも魅力的な映画館だ。中にはシネコンでは珍しいドキュメンタリーがあったり、エンタメ性の強いアート系だったり、インド映画もあれば香港映画もある…面白ければ何でもやる姿勢は今も変わっていない。

様々なお客様に対しても臨機応変に対応出来るのが地元密着型シネコンの良いところだ。時には映画業界以外で従事する人たちから意見を聞いて、良いと思う事を取り入れる。だからこそ地域の人たちとのコミュニケーションを大切にしている。そのひとつに特別支援学校に通う子供たちがお父さんお母さんと一緒に映画館で映画を観る「チャレンジド・プレーゴ」という上映会の開催があった。残念ながらコロナ以降は状況が整うまでしばらく休止中だが、以前は他の観客への配慮から子供と一緒に映画館で映画を観たくても我慢してきたという親御さんたちが、明るめの場内で声を出しても構わないという上映会に毎回満席になる盛況ぶりを見せていた。また映画館のスタッフもこうした会を催したおかげで多くの事を学ぶことが出来たという。このように全方位に耳を傾けて街と共に歩み続けてきた「藤枝シネ・プレーゴ」。今年で15年目という節目を迎えて、ここから十年後二十年後…どのように街の人たちに寄り添って行くのかを注目したい。


出典:映画館専門サイト「港町キネマ通り」
取材:2014年9月(2024年5月加筆)

語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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