岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

theater somewhere

博多の湾岸エリアにある常連から愛される映画館

2023年08月30日

KBCシネマ(福岡県)

【住所】福岡県福岡市中央区那之津1-3-21
【電話】092-751-4268
【座席】2スクリーン 188席

コロナ禍が明けた今年は日本各地で祭りやイベントが続々と復活している。4年ぶりの本格開催となる博多の代表的な祭り「博多祇園山笠」も7月15日の最終日に明け方から行われる「追い山」が例年にも増して大いな盛り上がりを見せた。疫病退散の願いを込めて、櫛田神社から街の中心部を1トンもある山笠を大勢の男たちが全速力で担ぐ(博多では舁くという)。その勇壮な祭りの様子は曽根中生監督の『博多っ子純情』の冒頭で見る事が出来る。映画のオープニングで「九州博多の夏は祇園山笠ではじまる」と紹介される通り、15日間に亘る神事は夏の始まりに相応しい。本作がデビュー作となる名バイプレイヤー光石研が主人公の中学生を演じた。初めて山笠を担いだ夏から思春期ならではの悶々とした日々を過ごしながら成長する姿を博多の風習を交えて描いている。冒頭の「追い山」のシーンで歌われる「祝いめでた」は、この歌が出ると何事があっても終わらせなくてはならない習わしが博多にあって、映画の終盤で他校との喧嘩を終わらせるために、両校の間に立った主人公がビビりながらも「祝いめでた」を歌って争いを収める…という粋な演出をされていた。

夏の盛りも落ち着いた頃。小倉から高速バスで初の博多入りをした私は、天神バスターミナルから博多湾を目指した。道幅の広い渡辺通りを歩くと、午前も遅めの時間帯だったので交通量も少なく(ピーク時は全国有数の大渋滞となるそうだ)、真っ直ぐ海から吹いてくる潮風が冷んやりと気持ち良かった。しばらくすると「九州朝日放送(KBC)」の建物が見えてくる。博多湾に面したこの界隈は長浜鮮魚市場があり、市場で働く人たちのお腹を満たすために出来た長浜ラーメン発祥の地でもある。元々、久留米にあった放送局が現在の場所に移転されたのは1987年のこと。当時の局内には日本でも珍しいKBCメディアが運営する「KBCシネマ北天神」というミニシアターがあった。まだ市内にはミニシアターが少なかった時代で、放送局が運営する映画館という珍しさもあって、福岡に限らず九州各地の映画ファンから注目を集めていた。

なかなか九州では観る事が出来なかった良質の作品がラインアップされて、その充実したプログラムに多くの映画ファンから高い評価を得ていた。常連のお客さんも増えて順風満帆に運営されていたが、ミニシアターブーム真っ盛りの1998年5月に、本社ビルの建て替えに伴い閉館が決定する。ところが長年劇場を愛していた常連の人たちがそれを黙って見ていなかった。何と有志を募って劇場再建の署名活動を行ったのである。その活動に多くのファンが賛同すると、その年の12月に本社ビルの向かいにミニシアター「KBCシネマ」が単独館として建設されて再スタートを切ることとなった。

最寄駅から少し離れた場所にあるにも関わらず多くの固定ファンを有し、署名運動によって閉館した映画館が復活するというケースは珍しい。署名に賛同した多くの人たちは「KBCシネマ北天神」時代から続くお客様だという。バリアフリーの緩やかなスロープを上がって、エントランスをくぐると平日の朝から多くのお客さんがチケット窓口に列を作られている。中には遠くからバスに乗って来て、1日に2~3本を梯子される方もいるとか。ご年輩の常連さんには映画通の方も多く、リマスター版上映の時にはオリジナルをご覧になったお客さんから当時を懐かしむ声も聞かれるそうだ。

壁面が黒と黄色で彩られた外観の「KBCシネマ」は遠くからでもすぐ分かる。それほど広くはないがロビーは不思議とくつろいでしまう落ち着いた雰囲気がある。客席数108席の「シネマ1」と客席数80席の「シネマ2」の場内は単独館だけに、どちらも奥行きがあり、天井の高い開放的な空間が特徴的だ。やはり放送局が母体の映画館だからだろうか、オープン当時は社会派やドキュメンタリー映画といったラインアップが目立っていたが、最近ではホラーやB級アクションまで幅広く上映されている。わざわざ遠方から来場される方のためにも作品選びに重きを置いている「KBCシネマ」。「ここでやっているから間違いない」と全幅の信頼を持つお客さんと相思相愛の関係が成り立っている理想的な映画館だ。


出典:映画館専門サイト「港町キネマ通り」
取材:2011年9月(2023年7月加筆)

語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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