岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

theater somewhere

銀座にある東映のメイン劇場で映画の醍醐味を満喫。

2023年04月12日

丸の内TOEI(東京都)

【住所】東京都中央区銀座3-2-17東映会館1F・B1 
【電話】03-3535-4741
【座席】2スクリーン 859席

昭和50年代を映画に明け暮れた十代を過ごした私にとって、東映の存在は大きかった。中学生の頃に松田優作主演の『最も危険な遊戯』を観た時は、あまりの面白さに次の回も続けて観て(当時は入替制ではなかった)しまった。東映と言えば、時代劇や任侠映画、ハードボイルドアクションといった硬派な男性映画という印象が強いが、女性を主人公とした映画も意外と多い。そして女性の描き方が上手い監督も多かった。その筆頭に挙げられるのは五社英雄監督。宮尾登美子の原作を映画化した『鬼龍院花子の生涯』や『序の舞』だったり、東映のお家芸であるヤクザ映画の主人公に女性を据えた『極道の妻たち』などいずれも名作揃いだ。遡ること昭和38年に公開された京都の遊郭で働く女性たちを描いた水上勉の小説を田坂具隆監督によって映画化した『五番町夕霧楼』は、成人指定を受けた映画だったにも関わらず、女性を中心に大ヒットした。東映の社史「東映の軌跡」によると、銀座にある「丸の内東映劇場(現在の丸の内TOEI)」では、「夜の蝶 深夜試写会」と銘打った銀座のバーやキャバレーで働く女性限定(同伴ならば男性も参加可)の試写会を深夜0時から行ったり、有楽町の企業に勤務する女性の出勤時間に試写会のチラシを配っていたとある。こうした営業活動のおかげで女性の集客につながったのだろう。

大学で上京したての頃は、新宿にあった直営館「新宿東映」で『ビー・パップ・ハイスクール』や『あぶない刑事』シリーズを観ることが多かった。そんな私が初めて「丸の内東映劇場」を訪れたのが、渡辺淳一のベストセラー小説を根岸吉太郎監督が映画化した『ひとひらの雪』だった。どちらかと言えば苦手なジャンルなのだが、たまたま観た予告編で流れていたジュディ・オングの主題歌と、主人公を演じる秋吉久美子の危うく刹那げな表情に魅了されてしまった。津川雅彦演じる著名な建築家との不倫ドラマだが、朝早くの回から満席で女性客の多さに驚いた。主役の二人よりも心に残ったのは建築家の若い恋人を演じた沖直美。昔のドラマに出てくる愛人のイメージとは異なり、歳の離れた中年男を懸命に愛する姿に心を打たれてしまった。不毛の愛に終止符を打つ決心をした彼女が絞り出す「好きな気持ちを残したまま別れさせて」の台詞が泣かせる。その後も渡辺淳一原作の映画が3本も東映で製作されたが、その度「丸の内東映劇場」に通うようになった。何となく銀座は渡辺淳一の世界観がよく似合う…と思ったからだ。平成9年に公開した森田芳光監督の『失楽園』は、社会現象となる大ヒットを記録して、あまり映画館に足を運ばない若者やサラリーマンも多く来場した。それでも場内はご婦人が多く、その中で官能的なシーンが多い本作を緊張して観たのを覚えている。

外堀通り沿いにある東映の本社ビルに、大川橋蔵主演の『海賊八幡船』を柿落としに、邦画系の「丸の内東映劇場」と洋画系の「丸の内東映パラス」がオープンしたのは昭和38年9月。『海賊八幡船』は連日立見が出る爆発的ヒットを記録した。昭和38年からオールナイト興行が始まると昭和40年代半ばまで安定した集客力を誇示し続けていた。ちょうど高倉健や藤純子の任侠映画から『仁義なき戦い』シリーズの実録路線に切り替わった時代で、毎週末には飲み屋帰りのサラリーマンや学生がスクリーンに喝采を送っていた。まだ深夜営業をしている飲食店やコンビニが無い時代で、休憩時間には売店が大いに賑わっていたそうだ。

「丸の内TOEI」と改名した平成16年には場内とロビーの全面改装を行い、壁面には大理石が用いられたロビーは高級感が漂っていた。社会人になって乗り継ぎ駅が有楽町だったので寄り道する機会も増えた。近年は東映もシネコン事業に力を入れているが、仕事帰りは直営館でゆっくりと観賞するのが私としては性に合っている。平日の最終回は来場者も多くないので、ロビーでノンビリ待ち時間を過せるのがイイ。「スクリーン1」の場内は今では少なくなった2階席があるので天井が高く開放的だ。1階席から後ろを振り返ると大劇場の風格に圧倒される。一方、地下にある「スクリーン2」はアジアを中心とした外国映画や東映ビデオ配給のマニアックな作品を扱っているので、昔からの東映ファンには「昭和から変わらない東映らしさが残る映画館」と根強い人気がある。「丸の内TOEI」は昔から画質と音響の良さに定評があったが、それもそのはず、東映のお膝元にある映画館だけに、以前は撮影監督の木村大作や音響スタッフが色や音のチェックを自らされていたというから納得だ。

銀座という場所柄ゆえに子供向け番組の集客が弱いとされていたが、最近ではそうした作品に大人の観客が訪れるという現象が見られる。仮面ライダーやアニメの応援上映は、コスプレをした学生やサラリーマンがメインというのだから驚く。思い返せば子供の頃、「東映まんがまつり」で、デビルマンとマジンガーZの競演に心躍らせてスクリーンに向かって主題歌を熱唱したものだ。これが私にとって応援上映の原風景だったかも知れない。こうして時代と共に映画の楽しみ方も変化しているが、常にワクワク感を提供してくれる映画館の本質は昔から変わっていないと思う。


出典:映画館専門サイト「港町キネマ通り」
取材:2017年10月

語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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