岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

theater somewhere

市民の生活を支える商店街にある街の映画館。

2022年10月26日

呉ポポロシアター(広島県)

【住所】広島県呉市中通3-5-3 ポポロ4階
【電話】0823-24-6609
【座席】2スクリーン 250席

広島駅からJR呉線に揺られること1時間足らず…広島から呉までは、快速ではなく各駅停車の鈍行に乗って行く。坂駅を過ぎたあたりから列車は海岸線を走り窓の外には瀬戸内の波光きらめく夏の海が広がる。外海に面していないから、瀬戸内の海はいつも穏やかで優しい。途中、水尻・天応・かるが浜…と、ホームから海が見える駅が続く。だから呉線に乗る時はいつも鈍行を選ぶ。近年、大ヒットしたこうの史代原作のアニメ『この世界の片隅に』で、広島から呉へ嫁ぐ主人公すず(演じるのんの声が素晴らしい!)と同じ道中だ。呉の先は竹原・尾道・福山…どの街も小津安二郎の『東京物語』や大林宣彦の『時をかける少女』などで知られたノスタルジックな港町が続く。

瀬戸内海に向かって三方を小高い山に囲まれた扇状地で天然の良港と言われる呉は、穏やかな気候に恵まれた造船の街だ。戦後は街にある重工場が日本の高度経済成長期を支えていた。だから近隣の港町と異なり、呉は荒々しく武骨なイメージが強い。昭和40年代にヒットした深作欣二監督の『仁義なき戦い』シリーズで菅原文太演じる主人公が、スクラップ工場の利権を得て一家を構えるのが呉だった。東映のヤクザ映画に出てきた呉の空は霞んでいたが、『この世界の片隅に』に出てくる空は青く夕焼けは柔らかい。戦時下で長閑な自然に囲まれた湾を巡洋艦が航行する光景が日常として描かれる。

明治22年に旧海軍の鎮守府が置かれ、軍港として発展した呉には、海軍兵学校と戦艦大和が作られた工場があり、今でも多くのミリタリーファンや歴史好きな観光客が多く訪れている。駅から歩いて数分のところにある呉市海軍歴史科学館(通称:大和ミュージアム)は、明治から戦時中にかけて軍港として栄え、戦後は大型タンカーを建造してきた街の歴史を紹介する施設だ。館内に展示されている実物の零戦や回天など、貴重な戦争資料を間近で見ることが出来る。すっかり気分が高まり、そこからタクシーで戦艦大和が建造された石川島播磨重工業の工場(当時)が一望出来る「歴史の見える丘公園」に連れていってもらう。戦時中は何度もアメリカ軍の空襲に遭いながらも、当時のまま現存するドックの巨大な姿に感慨深いものを感じた。

再び駅に戻り、街の中心を南北に流れる堺川に沿って東へ向かって歩く。駅から10分足らずの中通商店街(通称れんがどおり)に、ショッピングセンター「ポポロ」がある。4階にある2スクリーンを有する映画館「呉ポポロシアター」がオープンしたのは昭和61年のこと。元々、パチンコ屋と映画館だったこの場所に、ショッピングセンター設立の計画が持ち上がった頃、近くにあった映画館が火事で焼失してしまったため、急遽、施設内に映画館を設置する計画が盛り込まれた。「呉ポポロシアター」は、子供からお年寄りまで地元の人々に愛され続けてきた街の映画館で、買い物ついでのお母さんや学校やお勤め帰りの若い女性が多い。ワンスロープ式のレッドとブルーに色分けされた2つのシアターは、エントランス中央の受付で仕切られており、時代を感じさせないロビーは奥行きがあり、清潔感溢れる落ち着いた雰囲気の中でゆったりと待ち時間を過ごせる。

呉はロケ地として古くから誘致されていることから御当地映画が多い。フィルムコミッションが支援した『海猿』では海上保安大学校や市近郊の海岸で撮影されたため、公開時に行われた羽住英一郎監督の舞台挨拶には県外からも多くの観客が詰めかけた。また『男たちの大和』が公開された時には、少しでも大和が生まれた現場の雰囲気を味わいたいと多くのファンが殺到し、劇場が立ち見客で溢れ返ったという。元々この界隈は昭和40年代までは歓楽街だったため、やくざ映画や戦争映画の上映時はいつも盛況で、場内の扉が閉まらない程、立ち見客で連日賑わっていた映画街だった。それが時代の流れで、街に数十館あった映画館も次々と閉館してしまい、取材に伺った時は、近くにあった同系列の映画館「呉シネマ」(壁面に大きく掲げた館名が印象的な映画館だった)の2館だけになっていた。この2館でプログラムを上手く組み分けていたが、「呉シネマ」は平成23年に閉館。街に唯一の映画館となってしまった「呉ポポロシアター」には、昔と変わらず足を運ぶファンも多い。そんな人たち向けて、現在もメジャー系から単館系まで幅広く良質な作品を送り続けている。


出典:映画館専門サイト「港町キネマ通り」
取材:2008年10月

「呉ポポロシアター」のホームページはこちら
http://popolo1.blog107.fc2.com/

語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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