岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

theater somewhere

キングコングがビルを登りUFOが襲来する壁面が名物

2021年07月15日

【思い出の映画館】姫路大劇シネマ(兵庫県)

【住所】 兵庫県姫路市忍町68
【座席】 1034席
※2015年11月8日をもちまして閉館いたしました

姫路市は兵庫県南西部に位置する人口53万人の大きな街で、JR山陽本線の快速で三宮まで40分足らずというアクセスの良さから神戸・大阪のベッドタウンとして栄えてきた。駅の北口を一歩出ると真っ直ぐ延びる大手前通りの先に姫路城が見える。駅前には、みゆき通り商店街という大きなアーケード商店街がある。ここは地域の人たちにとって重要な生活拠点であり、昼間から多くの人たちが行き交う昔ながらの商店街だ。 元々、戦中の空襲で焼け野原となったこの場所に建てられたバラックが発祥で、みゆき通り商店街を中心に小溝筋商店街や協和通り商店街、城巽通り商店街といった小さな商店街が犇めき合っている。ブラブラ散策していると「炭焼あなご やま義」という店を見つけた。軒先で焼かれたあなごとあなごめしがセットになった1380円の「やま義定食」を堪能する。大きな河川がいくつも流れ込んでいる播磨灘では質の良いあなごが獲れる事から播州名物だそうだ。

山陽電鉄の播磨姫路駅から程近く市道十二所前線沿いに、エンパイアステートビルをよじ登るキングコングと空飛ぶ円盤の壁面が楽しい「姫路大劇シネマ」という大劇場があった。前身は映画最盛期の昭和30年3月にMGMミュージカル『略奪された七人の花嫁』をこけら落しでオープンした「姫路大劇」である。昭和39年12月には、東映封切館の「東映大劇場」と洋画専門館「大劇パレス」とボーリング場などの娯楽施設が入った総合レジャービル「姫路大劇会館」としてリニューアルオープンする。『トラック野郎』シリーズが人気絶頂期だった劇中で使われていた一番星のトラックがイベントで全国の劇場を回っていた。当時、そのトラックを停めていた駐車場に、装飾や部品を盗まれないよう映画館のスタッフが一晩中監視していたという。その後、昭和46年に到来したボーリングブームを皮切りに、昭和48年4月に「大劇アカデミー」、さらに昭和50年10月には4階を増築して洋画専門館「大劇プラザ」と成人映画館「大劇ロマン」をオープンすると、「姫路大劇会館」は市内屈指の大型娯楽施設として、近隣から多くの幅広い世代の人たちが訪れた。

「姫路大劇シネマ」のロビーは客席数に比べて狭いため(これが昔ながらの映画館の特徴でもあるのだが)人気のある作品の封切り初日ともなると、2階の階段まで延びる事もしょっちゅうだった。まずは受付で当日券を購入したら、良い席を確保するため早々と目的の劇場へ向かう。一番大きかった606席の「シネマ1」に入ると3階分くらいはある天井の高さに驚く。大きなスクリーンを視界いっぱいに楽しみたい時には前方の席、スクリーン全体を目線の高さで観たい方はスタジアムとなった中央の席…と、あちこち座りながら好みの場所を決めるのが自由席の楽しみ方だった。私のオススメは敢えて劇場の広さと会場全体の空気感を味わえる最後尾の席で、特に満席の回は観客の熱気が映像と共に伝わってきて、いつもと違う臨場感を感じる事が出来た。ここでは場所取りが肝心だが、時間に余裕がある時はロビーをブラブラして過ごすのが楽しかった。まだ消防法が緩かった時代に増築を繰り返して迷路のように張り巡らされた通路や、どこに出るのか分からない階段を上ってみると小さなロビーを発見したり…。結局、グルリと施設内を歩いた挙げ句、一周してロビー反対側に出るだけなのだが、劇場全体の構造が分かるだけでも何だかワクワクしたものだ。

2階の300席を有する「シネマ2」は、客席数以上に場内は広く感じる。それもそのはず、オープン時の昭和40年代には、70mm映写システムを完備していた事から「70mmパレス」とも呼ばれていたそうだ。「シネマ3」は、当初、ボウリングや映画館の利用者向けの食堂を映画館に改装。しばらくは邦画洋画のB級作品とピンク映画を交互に上映していたり、夏休みや冬休みのハイシーズンは子供向けの映画を上映していた。このように昼は子供向け夜は大人向けといった自由度のある上映形態の映画館は昔はたくさんあったものだ。駅から近い映画館として車を運転しないお母さんや年輩の方にとって貴重な存在だったが、平成27年11月8日に建物の老朽化と入場者の減少によって閉館。最期の2日間は「大劇最後の感謝祭」として無料開放を実施した。またその前年に逝去した高倉健の一周忌追悼と合わせて『日本侠客伝』『網走番外地』『昭和残侠伝 唐獅子牡丹』をラストショーとして60年の歴史に幕を降ろした。


出典:映画館専門サイト「港町キネマ通り」
取材:2013年8月

語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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