岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

theater somewhere

信州の豊かな自然に囲まれた街の小さな映画館

2021年05月12日

新星劇場(長野県)

【住所】長野県茅野市仲町9-15
【電話】0266-72-2310
【座席】 182席

八王子駅7時29分発の松本行特急あずさ1号に乗って山梨県と長野県の県境にある茅野駅に向かう。諏訪盆地の中央に位置する茅野市は、蓼科や八ヶ岳連峰を臨み、中心を流れる上川は諏訪湖に注ぐ、風光明媚な避暑地として多くの観光客が訪れる。駅を中心に放射状に広がる街は「縄文の郷」と呼ばれており数多くの集落遺跡が発掘された。日本三大奇祭の一つ「御柱祭」が行われる場所としても有名だ。よくニュースで目にする大木に数十人の男性が乗っかって坂を滑り落とすあの祭だ。正にその祭が行われる「諏訪大社」の総本社が駅から車で10分程の高台にある。「御柱祭」は7年目ごとの寅と申の年に行われ、社殿に「御柱」と呼ばれる樅(もみ)の巨木を曳建てるのが最大の神事だ。次の「御柱祭」が開催されるのは来年の4月から6月。それまでには国内も落ち着いて、何とか無事に実現することを祈る。神社に向かうタクシーの道すがら古い工場があちこちに見えていたので運転手さんに尋ねてみると「茅野は寒天の産地だから、あれはみんな寒天の工場だよ」と教えてくれた。海の無い信州で海藻から出来る寒天が名産とは意外だ。

茅野駅から歩いて程なく白い木造の壁面が印象的な映画館『新星劇場』がある。街の活性化を図るため有志によって日本映画が最盛期を迎えていた昭和32年に設立された映画館だ。ところが、やはり興行の素人が手を出しても上手く行くはずもなく、1年も経たないうちに経営が立ち行かなくなり、そこで街の人たちは、当時山梨県との県境にあった映画館の館主に、経営を引き継いでもらえないか?と話しを持ちかけた。その人が、現在代表を務める柏原昭信さんのお父様だった。経営を引き継ぐと、それまで閑古鳥が鳴いていた劇場にお客が押し寄せ、入場待ちの列が建物をグルリと囲み、場内の扉が閉まらない状態となる事が日常茶飯事になった。連日立ち見の場内では、子供を肩車して観ているお父さんもいた程だった。やがて、昭和40年代に入ると日本映画だけではお客さんは入らなくなり、時には一人も客が入らなかった日もあった。昭和50年代には昼間を子供向けのアニメ、夕方からポルノ映画を上映して危機を乗り越えた事もあるという。

20歳の頃から映写技師として映画館の仕事に携わってきた柏原さんは、元々、映写機をいじるのが好きで、メンテナンスからチューンアップまで、全てご自身で行っている。真空管ひとつ手に入れるのも大変だった戦後間もない時代から、設備に丹念に手を加え続けてきた。それだけに音響設備は個人館とは思えないほどクオリティーは高く、ワンスロープの場内に設置された10台のスピーカーから発せられるサウンドシャワーによって、360度の全方向から臨場感溢れる映像体験を楽しむ事が出来る。もっぱら不得手だった映画館の経営は奥様に任せていたという柏原さんは、現在「新星劇場」を定期上映から不定期上映に転換して、移動映写サービスを中心に活動をされている。

茅野市内には諏訪神社を筆頭に数多くの神社仏閣があるため、お祭りの度に広場や境内での野外上映や小規模の映画祭が行われており、依頼があれば上映作品の手配までしてくれるため、遠くは白馬からお声が掛かる事もあるという。中でも毎年秋に開催されている『小津安二郎記念 蓼科高原映画祭』は毎年、大勢の映画ファンが来場する地域に根付いた映画祭となった。コロナ禍の昨年はドライブインシアターという新しい試みで開催。多くの地元の飲食店が出店されて大盛況だったという。また柏原さんが創設メンバーとして名を連ねる「星空の映画祭」は、八ヶ岳のふもとで開催される日本一標高の高い映画祭として、1983年より続く蓼科高原の名物イベントとして毎年楽しみにしているファンが多い。昨年は残念ながらコロナの影響で開催されなかったが、毎夏の風物詩として今年は是非とも開催をしてもらいたいものだ。勿論、昔からコチラの劇場に親しんでいる方も多く「新星劇場で映画を観たい!」という地元の人たちが有志で応援団体を作ったりと根強いファンも多い映画館なのだ。


出典:映画館専門サイト「港町キネマ通り」
取材:2009年10月

新星劇場のホームページはこちら
https://shinsei-gekijou.com/index.html

語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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