九州で初めて活動写真の灯をともした老舗映画館
2021年04月28日
Denkikan(熊本県)
【住所】熊本市中央区新市街8番2号
【電話】096-352-2121
【座席】376席
「Denkikan」の前身となる「電気館」が出来たのは明治44年。当時は九州初の活動写真常設館として、現在の場所から少し離れたシャワー通りに設立された。弁士として活躍していた創設者の窪寺喜之助氏は全国の劇場を巡業中に熊本を訪れた際、まだ劇場が無かったこの地に映画館を作ろうと、思い立ったのが始まりだ。当時、無声映画を上映する劇場と言えば、芝居小屋や寄席の劇場を使うのが主流であり、日本全国でも常設館というのはかなり珍しかった。館名も浅草にあった日本初の常設館「電気館」にあやかったものだ。大正3年に新市街へ移転して、900席を有する近代建築の随を極めた熊本市のシンボルとなった。劇場の入口には「松竹キネマ映画封切劇場」と書かれた看板が大きく掲げられ、松竹キネマ、帝国キネマ、ユニバーサル、パラマウント、フォックス等、大手映画会社の作品を上映していた。昭和3年に飲食店等のテナントが入る3代目の「電気館」をオープン。複合型商業施設の先駆けとして市民の憩いの場となった。平成7年12月に現在のビルに建替えられ「Denkikan」という館名で、昔と変わらず世界の名作を贈り続けている。
現在のシャワー通りはお洒落なブティックやカフェが立ち並ぶ、東京でいえば渋谷や表参道のような若者の街であり、近接する「Denkikan」の雰囲気も時代と共に変化してきた。エントランスの床と壁面には木の板を打ち付け、間仕切りを全て見通しの良いガラスにすることで温かみのある開放的な空間となっている。籐で出来たテーブルやカウンターシート等の調度品が設置されているロビーはリゾート地にあるカフェのようだ。 映画のイメージに合わせたドリンクや軽食等を出す事もあるカフェスペースでは、ライブを開催したり、映画に絡めたイベントも開催されている。天気の良い日は通りを見下ろすテラス席で、豆にこだわっているカフェのマスターが自家焙煎されている珈琲(珈琲好きからも好評を博している本格的な逸品)を味わいながら映画が始まるまでの待ち時間を過ごすのも一味違う映画の楽しみ方だ。チケットカウンターに掛かっている黒板のタイムテーブルは毎日スタッフによって書き換えているのも洒落ている。
今では単館系の作品をメインにしているが、以前は名画座として古き良き名作を集めてフィルムマラソンと称した特集上映を催していた。当時は、熊本大学映画研究部の学生がバイトに来るというのが伝統となっており、映写や受付の他に作品候補の案出しにも参加して、そのまま就職する学生もいたという。また長年に亘り街の活性化のために「Street Art-plex」というプロジェクトに協力して音楽や大道芸等のパフォーマーたちを積極的に支援。その一環として音楽とアートを融合させたライブパフォーマンスによる作品をロビーに展示する形で応援している。また、平成15年には映画事業の功績が認められて、映画館初となる「日本映画批評家大賞」を受賞した。創立100年を迎えた時には、記念企画として久しぶりに日本映画の名作上映も復活。昔「電気館」で映画を観たお婆さんがお孫さんと共に現代の「Denkikan」で昔を懐かしみ同じ映画を観にくる…長年、映画の灯を守り続けてきた映画館だからこそ世代を越えた映画という夢の共有が実現出来たのだ。
出典:映画館専門サイト「港町キネマ通り」
取材:2010年4月
Denkikanのホームページはこちら
https://www.denkikan.com/index.html
語り手:大屋尚浩
平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。
語り手:大屋尚浩
平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。
日本三名城のひとつ熊本城のお膝元に、市内最大の繁華街として有名な新市街がある。スナックや小料理屋がびっしり入る飲食店ビルが乱立する熊本市にはユニークな名前の通りが多い。酒場通りとかクラブ通りとか、酒飲みが好みそうな名前の通りが交差している。その中心を走る長いアーケードのサンロード新市街通りにある映画館「Denkikan」を初めて訪れたのは平成22年の秋口だった。その時に熊本を気に入った僕は数年後に再び熊本を訪問。グラフィックデザイナーの太田和彦氏が書かれた著書「熊本の桜納豆は下品でうまい」にならって街を散策する。熊本市内の水源は全て阿蘇山系の伏流水からくる湧水で、一般家庭の蛇口をひねれば天然水が出てくるという清流の里だ。市電通りを挟んで、勇壮な熊本城と対照的に、緑豊かな庭園と清らかな湧水を湛えた水前寺公園のコントラストが実に美しかった。日本各地の映画館取材旅行で色々なお城を訪ねたが、熊本城ほど夕日の映える城はない。平日の夕方、観光客が誰もいない天守閣に上がって夕焼けに染まる街並みを見下ろして、よし、次は昼間に来てみようと思った。その時はまさか、この翌年に熊本地震で熊本城が大きな被害を受けるとは夢にも思っていなかった。