岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

theater somewhere

作り手も観客も映画と真剣に向き合える映画館

2018年05月30日

名古屋シネマテーク(愛知県)

【住所】愛知県名古屋市千種区今池1-6-13 今池スタービル2F
【電話】052-733-3959
【座席】47席

 名古屋駅からほど近い今池は、昔から名店と呼ばれる古本屋や古レコード屋が多く、今も昭和のアナログ臭がプンプンするイカしてる街だ。夜の帳が落ちる頃…映画好きが集まっては、明け方まで互いの映像論を交わしていた安酒場が、ここには何軒もあった。だから、あちこちでやっていた上映会が終わると、誰とも無く「今池に行こう」となる。この街は同好の志が集まる土壌なのだろうか…近くには「ピカイチ」という中日ドラゴンズファンの聖地として有名な中華料理屋がある。試合がある日の盛り上がりは半端なく、その熱気は店の外まで伝わって来るほどだ。

 この街にも昔は何館もの映画館があった。圧倒的な存在感で、街の中心に鎮座する雑居ビル「今池スタービル」も、以前は「今池スター座」という映画館だった。その2階に昭和57年にオープンした「名古屋シネマテーク」がある。市内のホールを借りて自主上映会をしていた代表の倉本徹氏が、常設映画館の設立に向けて動き出したのは、日本で観る機会が無かった国の映画が、大使館経由で貸し出されるようになった頃。

 当時の映画館と言えば大手配給会社のチェーン館が主流だった時代で、そうそう簡単に物件は見つからなかった。そんな時、このビルにあった居酒屋の常連だった倉本氏が、フロアに空きがあると聞いてビルのオーナーに掛け合ったのが始まりだ。もちろん、映画館が入ることを想定して作られていないため、場内は決して理想的な環境とは言い難かったが、それでも自分たちの映画館が持てた…という満足感の方が大きかったという。

 年季の入った階段を上がっていくと、ビルに染み込んだカビの臭いに混じって映画館の臭い(分かる人には分かる)がしてくる。蛍光灯に照らされた廊下の壁一面に貼られた印刷物に、これから観る映画への期待が否が応でも高まっていく。床に目をやると「映画ココカラナランデオマチクダサイ」という表示。矢印の先には映画館とは思えない小さなスチール製のドアがあって、一瞬、開けるのをためらってしまう。隣の部屋は映画の図書館となっており、5000冊以上の書籍が所蔵されている。無造作に積まれた資料の山…この雑然とした雰囲気が映画好きにはたまらない魅力だ。

 毎年12月に開催される「自主製作映画フェスティバル」では、若手監督に発表の場を提供してきた。期間中レイト枠で行われる「何でも持って来い!」(このネーミングが最高!)は、規定の条件を満たしていれば、全作品を上映してくれるとあって、毎年多くの作品が持ち込まれている。

 オープンから次々と画期的な企画を送り続け、名古屋におけるミニシアターブームの基礎を築いた「名古屋シネマテーク」。気がつけば、観客も作り手も映画と真剣に向き合っている。そんな強面の映画館が次々と姿を消している昨今…こうしたホンモノに出会うとシビれてしまう。


出典:映画館専門サイト「港町キネマ通り」
取材:2012年9月

語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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