岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

theater somewhere

最も自由で民主的な文化を創造する名古屋の老舗劇場

2022年03月23日

名演小劇場(愛知県)

【住所】愛知県名古屋市東区東桜2-23-7 
【電話】052-931-1701
【座席】「名演小劇場1」105席/「名演小劇場2」49席

名古屋駅から市営地下鉄に乗って栄駅で降りる。地上に出ると市の中心部に位置する久屋大通公園の向こうに、街のシンボル・名古屋テレビ塔が見える。この界隈はテレビ局や劇場などが建ち並ぶ芸術・分化の発信基地の様相を呈す。公園から歩くこと10分足らずの場所に、名古屋における演劇・映像文化を牽引してきた「名演会館」が、昔と変わらない姿(三角のモザイク模様の梁が印象的)で建っている。このビルが竣工したのは昭和47年2月のこと。先日、創設50周年を迎えたばかりだ。当時、名古屋市内には自由に演劇公演が出来る独自の小屋が無かったため、公演の度ホールを借りるしかなかった。そこで会員1万人を擁する演劇鑑賞団体である名古屋労演と地元劇団の代表が集まって株式会社名演会館を発足。それまで劇団の常宿にしていた「丸花旅館」から安価で現在の土地を提供された事から劇場の建設計画は具体化した。呼び掛け人には千田是也、杉村春子、宇野重吉といった日本の演劇界を代表する錚々たるメンバーが名前を連ねていた。そして「最も自由で民主的な文化を創造する場」として地上5階建て、地下には稽古場を備え、最上階に二つのフロアを吹き抜けにした劇場「名演小劇場」を有した演劇ビルがオープンした。

芝居を上演しない月は、ゲストを招いてトークショーを交えた映画の特集上映を開催したり、市民映画祭の会場として場所を提供するなど映像文化の発展に貢献。夏休みシーズンには「夏休み子供劇場」と銘打って、人形劇・児童劇・邦楽・子供向け映画を実行委員会を作って提供されていた。やがてバブルが過ぎたあたりから、名古屋の演劇環境はすっかり変わってしまった。市内の各区に公共ホールが数多く出来たため、ここを利用する演劇団体が減ってしまったのだ。それまで舞台講演の合間に映画上映を行っていた「名演小劇場」だったが、平成15年に上映された『チョムスキー9.11』のヒットを受けて、翌年には本格的な映画館としてリニューアルオープンして、更に1階にあった事務所と喫茶店を50席ほどの映画館に改装。2スクリーン体制で再スタートを切ることとなった。2フロアを吹抜けにした開放的な場内が特長的な「小劇場1」は、舞台の半分をスクリーンで区切り(裏手には演劇用の緞帳や幕が残っているそうだ)、演劇用のイスを映画用に入れ替えて、客席数も150席から105席にしてゆとりを持たせた。

外の階段を上がったところにあるエントランスの横の喫煙所を兼ねたテラスは、かつて1階にあった喫茶店の名残り。喫茶店だった場所は50席ほどの映画館「小劇場2」へと変わると、かつて劇団員たちが自らの演劇論を戦わせたテラスは、今では観客同士が映画談義を繰り広げるサロンに変貌した。 2階にある資料室には「名演会館」設立時からの台本や会報誌、演劇に関する書籍が保管されており、そこから漂う古書特有の香りに文化の重みを感じる。3階にある受付でチケットを購入して4階へ上がると「小劇場1」がある。

映画館へリニューアルして間もなく公開された是枝裕和監督の『誰も知らない』が、ミニシアターの規模としては異例の2万人近くの観客を動員する好調な滑り出しを見せた。当初は、どこの劇場も内容が暗いため敬遠されていたそうだが「こういう映画もやらなくてはいけない!」と上映を決めたタイミングで、カンヌ国際映画祭で主演の柳楽優弥が最優秀主演男優賞を受賞。その後も安定した動員数で年輩の客層に多くの支持を受ける映画館となった。この成功を受けて、上映作品の選定は社会性のある人間ドラマやヨーロッパ映画を中心とした構成となる。3階にあるロビーは年輩のお客様がゆったりと過ごせるよう考慮されてソファーとテーブルが設置されており、待ち時間にお弁当を広げてくつろぐ方も多く見られる。

ミニシアターとしては名古屋では後発ではあるが、良質な人間ドラマを中心としたプログラムが定着している事と、周辺の落ち着いた文化的な環境との調和が相まって、「映画を観るのはここじゃなきゃ」と、こだわられる年輩の固定客が多く訪れている。映画館に特化したとは言え、現在も劇団民藝などによる演劇公演の企画を行っている「名演小劇場」。創業者たちが劇場にかけた思い「会館は死せる記念塔ではない。生きものです。生きた運動の場です」という言葉通り、例え、興行の形態が変わっても芸術・文化の本質は昔と何ら変わっていないのだ。


出典:映画館専門サイト「港町キネマ通り」
取材:2012年9月

「名演小劇場」のホームページはこちら
http://www.cine-gallery.jp

語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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