岐阜新聞 映画部

映画にまつわるエトセトラ

Rare film pickup

演出家の仕事は脚本の段階で始まっている

2022年11月15日

台詞で辿る深田晃司監督作品

©星里もちる・小学館/メ~テレ

©2022 映画「LOVE LIFE」製作委員会&COMME DES CINEMAS

深田晃司監督作品は、共同脚本の『本気のしるし 劇場版』以外、単独脚本である。

「演出家の仕事は脚本の段階で始まっている」と言う深田監督は、台詞を書くときの3つの掟として「コミュニケーションの関係性の中から台詞を考える」「名台詞やかっこいい台詞を書かない」「本音を話させない」を心がけていると答えている。

確かに深田作品には「君の瞳に乾杯!(カサブランカ)」という歯の浮くような台詞は無いが、映画のテーマを左右するような印象に残る台詞はいくつもある。CINEX映画塾に初登壇していただいた『淵に立つ』(2016)以降の作品を台詞と共に辿ってみたい。なお( )内は公開年とキネ旬ベストテンの順位。

「俺たちはやっと本当の夫婦になったんだよ」--『淵に立つ』(2016/3位)
殺人で服役してきた八坂(浅野忠信)によって、実は共犯だった利雄(古舘寛治)の娘が障害者にされてしまった。なのにも関わらず自分の罪のバランスがとれたと思いホッとした利雄が妻(筒井真理子)にいう台詞。恐ろしい本音だ。

「ツキガキレイデスネ」--『海を駆ける』(2018/76位)
インドネシア人の青年クリスが、サチコ(阿部純子)に「好きです」と告白したときに使った言葉。面食らったサチコの反応は「月なんか出ていないわよ」。そもそもは貴子(鶴田真由)がタカシ(太賀)に「夏目漱石は"I LOVE YOU"を"月がきれいですね"と訳した」と教えたのが発端で、回り回って青年に不幸な結果をもたらしてしまった。

「どこかでお会いしましたっけ?」--『よこがお』(2019/4位)
映画の冒頭美容師の和道(池松壮亮)が、お店にやってきたリサ(筒井真理子)に鏡越しに尋ねる台詞。何気ない会話だが、これから始まるドロドロしたサスペンスに相応しい日常会話だ。

「すみません」「ごめんなさい」--『本気のしるし 劇場版』(2020/5位)
優しい好青年・辻一路(森崎ウィン)の親切に対し、裏切り続ける葉山浮世(土村芳)がその都度発する謝罪の言葉。何故かすべて赦せてしまう魔法の言葉だ。

「取り消してください」--『LOVE LIFE』(2022)
子持ちの妙子(木村文乃)との結婚に反対していた二郎(永山絢斗)のお父さん(田口トモロウ)が、彼女を評して"中古品"と発言したことに対する毅然とした切り返し。妙子の人となりが一瞬にしてわかる。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

©2022 映画「LOVE LIFE」製作委員会&COMME DES CINEMAS

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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