岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

theater somewhere

九州の老舗映画館が新しい映像体験を送り続ける。

2023年07月26日

セントラルシネマ宮崎(宮崎県)

【住所】宮崎県宮崎市新別府町江口 862-1 イオンモール宮崎2F 
【電話】0985-23-2336
【座席】9スクリーン 1821席

九州の南東部に位置する宮崎県宮崎市。駅に降り立つと県木フェニックスが出迎えてくれる。初めて宮崎を訪れた8年前は、県庁所在地の駅にも関わらず周辺は思ったほど賑やかではない印象だったので驚いた。それもそのはず、街の中心は駅前からまっすぐ伸びる通りを歩いて15分ほどの場所にある県庁や市役所が達並ぶ橘通界隈だった。その日の夜、九州南部に大型の台風が上陸した。翌日は鹿児島の映画館を取材する予定だったが、台風一過で快晴となったものの途中の川が増水のため鉄道が完全にストップしてしまい、気持ちを切り替えて市内をぶらぶら散策する事に決めた。

しばらく歩いていると目に止まったのが、モダンな建物「みやざきアートセンター」に貼っていた「生賴範義展」のポスター。しかもその日が最終日!生賴範義は私の大好きな画家で、そういえば40歳を目前に東京から宮崎に移住して活動を続けられているという話を思い出した。代表作として平井和正のSFファンタジー小説『幻魔大戦』のカバーイラストや映画『復活の日』のポスターがよく知られている。その画風が気に入られて、ジョージ・ルーカスから『スターウォーズ帝国の逆襲』のポスターを依頼を直接されたのは有名な話しだ。私が好きな映画ポスター(作品の良し悪しは別として)『テンタクルズ』や『ミラクルマスター/7つの大冒険』は、日向灘の豊かな自然に恵まれた土地で生まれたというわけだ。思いがけない偶然に逸る気持ちで会場へ向かって半日ここで過ごした。

市街の中心部から車で15分ほどの場所に、日向灘に面した「フェニックス・シーガイア・リゾート」がある。観光都市を目指して官民一体のプロジェクトで完成した広大な敷地は、ゴルフコースやコンベンションセンター、ホテルなどが建ち並ぶ九州屈指の一大リゾート施設だ。夏には臨海公園のビーチで海水浴やマリンスポーツを楽しめる。市街地の近くにこうした場所があるのは正に宮崎ならではだ。公園に隣接するショッピングモール「イオンモール宮崎」内に、シネマコンプレックス「セントラルシネマ宮崎」がある。設立当時、イオンモールに入るシネコン言えば「ワーナー・マイカル・シネマズ」という時代に、地元の映画館が入るというニュースは業界を驚かせた。

運営するセントラル観光(株)は、古くから九州で幾つもの映画館を運営してきた会社で、福岡県大牟田市にあった「大牟田スカラ座」をはじめとする5館の映画館を経営していた。宮崎県に進出したのは、市内にあった廃業したホテルの跡地に7スクリーンを有する映画館ビル「宮崎セントラル会館」としてオープンした1977年のこと。この頃は映画会社が直営館を持っていた時代で、個人館にはなかなか人気作品は回ってこなかった。そこで当時の社長は福岡の配給会社に何度も足を運んで直談判して、ようやく人気作や話題作を掛けられるようになったのだ。そこから徐々に来場者数も増えて、最盛期には連日、ビルをグルリと囲む長い列が出来たという。

九州の中で長い間シネコンが無かった地域だった宮崎だが、新しく建設するショッピングモールに初のシネコンを入れたいので協力して欲しいという要望が市から寄せられて「宮崎セントラル会館」からバトンを引き継ぐ形で「セントラルシネマ宮崎」は2005年5月17日にオープンした。宮崎県は九州の中でも長い間シネコンが進出していなかった地域だったため、オープン時は地元の人たちの期待度がものすごく高かったという。照明を落としたロビーを見上げると地球をイメージした球体となっており、壁面にある植物をモチーフとしたオブジェが、七色に変化する照明に浮かび上がり、幻想的な雰囲気を醸し出している。特長的なのはコリドーの壁面に使われている飫肥杉だ。飫肥杉は宮崎県日南市付近で育成される県産材で、ほのかに漂う木の香が実に心地よい。

オープンして2年目の夏から家族連れが多くなり、幅広い年齢層が訪れるシネコンへと成長を遂げた。駅から遠いにも関わらず中高生やお年寄りの動員数も増えてきた。それから15年が経ち、宮崎駅再開発プロジェクトによって開業した「アミュプラザみやざき」に、同社系列のシネコン「ワンダーアティックシネマ」が2020年11月にオープン。人々のニーズも細分化と多様化する今の時代…自分のライフスタイルに合わせて映画を観賞する場所を選べるようになったのだ。


出典:映画館専門サイト「港町キネマ通り」
取材:2015年8月(2023年6月加筆)

語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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