岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

theater somewhere

東北の城下町にある市民が愛した小さな映画館

2021年03月17日

盛岡ピカデリー/ルミエール(岩手県)

【住所】岩手県盛岡市中央通1-8-13 中央ビル地下/岩手県盛岡市菜園2-2-2
【電話】019-653-2420/019-625-7117
【座席】176席/147席

 北上川と中津川が合流し、いくつもの丘陵に囲まれる風光明媚な東北の城下町・盛岡。今では国内でも少なくなった映画館通りが残る文化の街としてもよく知られている。江戸時代から大衆芸能が盛んだったこの場所に初めて活動写真が上映されたのは明治初期の事。明治24年に開業した盛岡駅と市の中心部を流れる北上川に開運橋が架けられたのを契機に新しい街づくりが行われた。大正4年に現在の南大通りに活動写真専門の「記念館」が誕生すると近隣の芝居小屋も次々と活動写真専門館に改装していった。大正15年に盛岡城の西側一帯にあった2万坪を超える水田を払い下げて大規模な開発が行われると昭和10年に幹線道路が完成。これが現在の映画館通りである。最盛期には15館の映画館が軒を連ね、数多くの名作のロケ地として盛岡市は映画の街として知られるようになった。

 日本映画が庶民にとって娯楽の中心であった昭和21年に映画雑誌「映画」が創刊された。編集長を務めていた故・小暮重信氏は昭和30年、盛岡市内に日活の直営館である「盛岡日活映画劇場」の建設に参画。編集長時代に培った数多くの映画人の人脈を活かし、こけら落としに、日活の大スター小林旭や浅丘ルリ子を招いて華々しくオープニングを飾った。そして、昭和39年に「盛岡ピカデリー」、昭和62年に「盛岡ルミエール1・2」の設立に着手する。館名にあるルミエールは映画産業の祖と呼ばれるルミエール兄弟から取ったものだが、名付け親は重信氏と親交の厚かった映画評論家の故・淀川長治氏である事は有名な話し。まるでプライベートシアターのような小じんまりとした場内の「盛岡ルミエール1・2」は、単館系から名作の三本立て興行を行っていた。席に座って後ろを見ると映写の窓はあるものの、映写室らしきスペースが無いことに気づく。3階と5階にある劇場の映写室は4階にあり、映像を2枚の鏡に反射させてスクリーンに投影するという手法を採用しているのだ。限られた空間を有効に使うために編み出されたユニークな上映システムのおかげで快適な広さの場内が実現している。

 そこから5分ほど歩いたところ。映画館通りの入口に、名物の絵看板を掲げたビルの地下に以前と変わらない出で立ちのロードショー館「盛岡ピカデリー」がある。ワンスロープ式の場内は、地下とは思えない程ゆったりとした空間だ。通常のスロープよりも高低差が確保されているため前列の頭で遮られる事がなく比較的どの場所からも観やすい映画館だ。しかし、施設の老朽化と近隣に出来たシネコンの影響による客足の減少から2009年1月に閉館する決断を下す。最終週の感謝特別上映会には平日の夜にも関わらず連日100以上もの映画ファンが 訪れて別れを惜しんだ。ラストショーは、盛岡でロケを行った『男はつらいよ 夜霧にむせぶ寅次郎』と『サウンド・オブ・ミュージック』。最盛期には16館もの劇場が軒を連ねていた映画館通りで、年間5万人もの入場者数を誇った「盛岡ピカデリー」の閉館は、東北の興行界においてはひとつの時代の終焉と言える大事であった。ところが、時代はまだ「盛岡ピカデリー」を必要としていた。閉館からわずか1ヶ月で復活を果たす事となったのだ。『おくりびと』が米アカデミー賞外国語映画賞を受賞したのを契機に観客数が急増。メイン館だった「盛岡ルミエール」2館ではまかない切れず、急遽「盛岡ピカデリー」を再開する事となったのだ。一度、閉館した映画館が一ヶ月足らずで再開するという嬉しい珍事となった。

 それから2年後の2011年3月11日、この街を未曾有の大災害が襲った。東北地方の太平洋沿岸部に大きな爪跡を残した東日本大震災である。比較的被害が軽微だった盛岡市内でも震度5強から6弱を記録し、数日間、街の機能を奪われてしまった。それはちょうど、翌日から子供向けの春休み映画が始まろうとしていた矢先。この日のために子供たちは前売り券を買って楽しみにしていた時だった。地震発生から1週間、少しずつではあるが市内では震災以前の生活を取り戻し始めた3月19日から盛岡映画館通りにある全ての映画館が活動を再開。時期尚早ではないか?という意見も出る中、たとえお客様が来なかったとしても映画館は開けようとオープンの決断を下す。それは正に大英断であった。震災前、お金を握りしめて劇場の窓口に前売り券を買いに来ていた子どもたちが、バスや電車を乗り継いで『ワンピース』や『ブリキュア』を友だちと連れ立って観に来ていたという話しを聞くと、やはり盛岡は映画の街なのだ…と思う。


出典:映画館専門サイト「港町キネマ通り」
取材:2011年3月

盛岡ピカデリー/ルミエールのホームページはこちら
http://nanbukogyo.jp/morioka/

語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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