坊ちゃん列車が走る街で、好きな映画を掛け続ける映画館
2018年05月09日
シネマルナティック(愛媛県)
【住所】愛媛県松山市湊町3-1-9 マツゲキビル2F
【電話】089-933-9240
【座席】160席
映画の中に「坊っちゃん列車」が登場するのは昭和63年の松竹映画『ダウンタウンヒーローズ』だ。松山出身の小説家・早坂暁による自伝的小説を山田洋次監督が映画化。薬師丸ひろ子演じるヒロインに恋をする中村橋之助と柳葉敏郎演じる学生を主軸に、戦後の混乱期を謳歌した旧制松山高校の若者たちの姿を高らかに描き上げている。劇中、道後温泉の遊廓から足抜けした娼婦の咲子が、学生寮に匿われるエピソードがある。演じるのは石田えり。尾美としのり扮する学生が「坊ちゃん」を読んだことがあるか尋ねると「うち…字ぃあんまり読めんけん…」と、はにかむ場面が切なく、石田えりが最高の演技を見せる。その彼女を乗せたのが「坊っちゃん列車」。長らく保存されていた本物を走らせて撮影された。現在はディーゼル機関車に変わり市内を定期運行している。
その「坊ちゃん列車」に乗ってJR松山駅から10分ほどの松山市駅に行く。途中、大手町線と高浜線が交差する箇所では、全国でも珍しい電車が電車の通過を待つ踏切りがある。ちょうど高浜線の通過するタイミングにあたり、遮断機が下りて車と一緒に待つ光景を見ることができた。街のど真ん中にある松山城をかすめて松山市駅に到着すると…なるほど、さすが四国有数の繁華街だけあって、JR側とは比べものにならないほど、利用客で賑わっている。
駅前から東に延びる松山銀天街の突き当たりにお目当てのミニシアター「シネマルナティック」がある。代表の橋本達也さんが自己資金130万円から始めた映画館だ。オープン当時は、デレク・ジャーマンから市川雷蔵など新旧の名作を取り混ぜて、自分が観たいと思うものを積極的に上映した。3ヵ月が過ぎたあたりで気づけば資金が底をついていたという。それでも地元のお客さんと愛媛県出身の作家や映画人たちの応援によって、やがてヒット作にも恵まれ上映本数も次第に増えてきた。不入りが続いて覚悟を決めた時も思いがけない映画によって救われたこともあった。好きで始めた映画館だから、何とか食べて行ける分だけ稼げればイイ…という思いでコツコツ続けてきた橋本さんの元に、今も県内各地から映画を愛する常連客が集まる。
出典:映画館専門サイト「港町キネマ通り」
取材:2016年4月
語り手:大屋尚浩
平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。
語り手:大屋尚浩
平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。
今回は四国の映画館を取材しようと愛媛県松山市に宿を取った。夏目漱石の小説「坊ちゃん」の舞台となった街は色んなものに「坊ちゃん」の名前が付いている。お土産はもちろんのこと、スタジアムまで「坊ちゃん」一色だ。小説の中で「マッチ箱のような汽車」と、主人公が中学校に赴任した時に乗った伊予鉄道をいつしか「坊っちゃん列車」と呼ぶようになった。ひとつの車輌に20人も乗れば溢れてしまうこの列車は、明治21年に伊予鉄道が松山 - 三津間で開業した際に、ドイツから輸入された蒸気機関車で、昭和35年に廃車されるまで住民の足だった。