岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

theater somewhere

映画愛に満ち溢れたロビーで、自然と気分も高まる

2018年04月04日

テアトルサンク(福井県)

【住所】福井県福井市中央1-8-17
【TEL】0776-23-2706
【座席】スクリーン1:592席 スクリーン2:160席 スクリーン3:207席 スクリーン4:285席 スクリーン5:241席

 福井県と言えば、伝統工芸品の竹人形が有名だが、花器や籠を作る際に出る廃材を使って何かできないか?と職人の遊び心から生まれたそうだ。その歴史は昭和20年と意外に最近である事に驚いた。

竹の筒を0.2ミリに裂き続けて仕上げる髪の毛から襟元にかけた繊細なフォルムに魅了されたのが、福井出身の作家、水上勉だ。昭和38年に発表された『越前竹人形』は、越前国武生市で竹細工を作る青年・喜助と遊廓で働く玉枝の悲恋を描いた物語で、同じ年に吉村公三郎監督によって映画化(玉枝を演じる若尾文子が美しい)されている。その遊廓があったのは、福井駅から北陸本線で15分程のところにある「あわら(芦原)温泉」という風光明媚な温泉街だ。

 喜助が住んでいる武生駅と福井駅を結ぶのが、福武線という市内を走る路面電車。市民の足であると同時に観光客にとっても便利な移動手段だ。駅前には、電車通りと中央大通りに分岐する三又交差点から福武線の電車が入って来る姿が実に絵になるポイントがある。この日も鉄オタの少年たちがカメラを持って待ち構えていた。ここも北陸新幹線延長による再開発の対象になっており、いずれは景色が変わってしまうのだろう。その福武線に乗って足羽山公園口で降りる。15年前に訪れた時はちょうど桜が満開のシーズンで、市内を流れる足羽川の両岸にある桜並木が壮観だった。街の中心部にこうした自然があって、郊外に行けば温泉街がある…とても住み心地の良い街だと思う。
 福井市は駅を中心に発展した全国でも珍しい街で、行政と商業エリアが隣接した構造となっている。昭和30年代、福井県民が出かける…と言うと、駅のすぐ近くにある佐佳枝という界隈(現在の中央)を指していた。当時、市内に住む人たちが「駅前に行く」と言っていたのに対して、郊外の人たちは「福井に行く」と言っていたのが何とも微笑ましい。昭和3年に松竹の専門館「福井松竹座」という館名で創業した老舗の映画館「テアトルサンク」があるのもこの辺り。最盛期には市内にあった全ての映画館が佐佳枝に集中していた事からも、ここが街の中心だったと分かる。
 5つのスクリーンから成る「テアトルサンク」は、戦後の映画黄金期を迎えると、飛ぶ鳥を落とす勢いで次々と映画館を設立。中でも客席数950席を有する鉄筋3階建ての「福井松竹劇場」と、900席の70ミリ劇場「テアトル福井」は、県内最大規模を誇る大劇場で街のシンボルだった。平成11年のリニューアル後も大劇場の風格は昔のまま。ハリウッドの大スターたちがコラージュされたロビーは映画ファン必見。また、劇場を細分化せずビルの3階分に匹敵するスクリーンサイズの劇場をあえて残しており、『シン・ゴジラ』公開時にはわざわざ他県から訪れるファンも多かった。

出典:映画館専門サイト「港町キネマ通り」
取材:2016年8月

語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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