岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

theater somewhere

戦後の活気ある商店街でアメリカ映画を送り続けた。

2021年10月13日

【思い出の映画館】千日前セントラル(大阪府)

【住所】大阪府大阪市中央区難波千日前9-11
【座席】452席
※2006年9月15日をもちまして閉館いたしました

昔と変わらない活気と人情味が色濃く残る大阪の難波にある入口に大きな「道」と書かれた看板を掲げる「千日前道具屋筋商店街」は、その名が示す通り調理器具などを扱った小売店が軒を連ねるアーケードだ。中には食堂のショウケースに陳列するメニューのロウ細工を売っている店もあって、勿論、小売りもしてくれるので大阪土産として購入される観光客も多い。道頓堀からブラブラ散策しながら歩いていると「食い倒れの街」を象徴する安くて美味しい食堂や日本酒専門の立ち飲みの店がいくつもある。そして南海通を過ぎた辺りは、なんばグランド花月、SWINGよしもと、ワッハ上方といったよしもとワールドが広がるエリアだ。元々この界隈は昭和初期に次々と歌舞伎や芝居小屋が建設され、日本のブロードウェイと呼ばれた古くから娯楽の中心地だった。その名残から、平成を過ぎても道頓堀から千日前の通りには、数多くの映画館があった。

そんな活気ある商店街の外れに「千日前セントラル」という映画館があった。ここは駅からは少し離れているため、人気作品ともなると駅前の映画館が満席だったとしても徒歩5分程のここに来れば、同じ作品で余裕で入る事が出来たので、ファンの間では穴場的な存在として重宝されていた。昔から変わらないエントランス前の市松模様のタイルとミラー仕上げの「CENTRAL」と大きく館名を掲げる風格ある正面外観は、黒と白を基調とした昔ながらの大劇場そのものだ。昭和21年に客席540席を有する洋画専門館「セントラル会館」で創立。館名が「千日前セントラル」となった昭和34年からは、東宝洋画系の作品を上映して若者からお年寄りまで幅広く訪れていた。

館名にある「セントラル」は、戦時中に禁止されていたアメリカ映画を敗戦後の日本に積極的に輸入を促進するために設立された配給会社「セントラル映画社」のこと。GHQの占領下にあった日本では日本人の武士道精神が戦争につながる意識を増長させる恐れて、GHQは時代劇の製作はしばらく禁止。一方でアメリカ文化や自由主義の素晴らしさを描いたハリウッド映画の輸入を積極的に働きかけていた。「千日前セントラル」の前身となる「セントラル会館」は、MGMやワーナー、コロムビア等の映画会社9社の作品を配給するセントラル系の作品を上映する封切一番館として設立された。セントラル映画社は配給のみで国内での直営館を持たなかったため、日本映画のメジャー館の息がかかっていない独立系の個人館と直接契約を行い、解体までの5年間に国内で40館近くセントラル系の映画館を立ちあげた。そして「セントラル会館」でも『カサブランカ』をはじめ『荒野の決闘』や『サンセット大通り』など数多くの名作を送り続けた。

正面に向かって左手にあるチケットの自動販売機でチケットを購入して入場すると、ロビー正面に大きな文字が書かれたパネルが目に飛び込んで来る。これは劇場経営者の名前を高名な書家の先生が描いたもので、その上には光という文字が…映画という夢を光という文字に投影したものだという。ホールを中心に囲むようにして存在するロビーは広く懐かしいテレビゲームが設置されているのが楽しい。通路に置いているカネボウアイスクリームの冷凍ケースからアイスを取り出して売店のおばちゃんに差し出す。残念ながら今となっては、カネボウのアイスってどんな味だったか覚えていない。そもそも果たしてそれがカネボウのアイスだったかも不明だ。

アイスを片手に薄明かりの場内に入る。天井が高く開放的な場内は夏なのにひんやりした冷気が漂っている。大きなスクリーンは昔ながらの大劇場の風格を今に残す。やっぱりスクリーンは同じ高さの目線で観るよりも見上げるくらいが迫力があってイイ。座席はワンスロープ形式ながらも傾斜が大きく観易いのが特徴だ。「映画を観るならココ!」と、昔から通い続けているこだわりのファンが多いのも頷ける。映画を観て余韻に浸りながら商店街をブラブラして帰路につくのが、ここの映画館ならではの楽しみだった。そんな地元の人たちに愛され続けた映画館も、郊外にシネコンが増えてくると客足も減少して平成18年に60年の歴史に幕を下ろした。


出典:映画館専門サイト「港町キネマ通り」
取材:2003年7月

語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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