岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

theater somewhere

生活の延長線にある居心地の良い街の映画館。

2022年10月17日

港南台シネサロン(神奈川県)

【住所】神奈川県横浜市港南区港南台3-3-1 港南台214ビル3F
【電話】045-831-3377
【座席】2スクリーン 各103席

昭和49年からベッドタウンとして発展してきた都心から1時間足らずの港南台駅は、徒歩10分圏内に3つの大きな団地群がある。その途中に緑豊かな静かで落ち着いた大きな公園があって環境は最高だ。2つ先の駅は山の中腹から顔をのぞかせる観音様が有名な大船駅で、更にそこから分岐して鎌倉や茅ヶ崎に足を伸ばせる。駅前ロータリーを囲む商業施設「港南台バーズ」は、休日になると近隣から多くの家族連れが訪れる。そんな施設の中に大切にしたい映画館がある。地元の人々に愛され続けている「港南台シネサロン」だ。決してインスタ映えするような大きな特色は無いのだが「今日は映画でも観ようかな…」と思い立ったら普段着で行ける気軽さがある。映画館がある街の雰囲気だったり、来場する人たちの出で立ちだったり…色んな要素が合わさって、居心地の良さは形成される。例えば、同じ映画をみなとみらいの映画館でもやっていたとして、ここの映画館の方がしっくり来るという直感のようなものが働く。最近で言えば、小林聡美主演の『ツユクサ』がそうだった。そんな感じで、ここで観て良かった…と満足した映画が今までに何本もあった。

「港南台シネサロン」は、昭和62年9月14日にソニーのビデオシアターとして「ヘラルド・クラシックス」と邦画を中心としたプログラムでオープンした。「港南台バーズ」の中に「どんな施設があったら良いか?」という住民にアンケートを取ったところ、一番多かった回答が映画館だった。オープニング作品の『ローマの休日』と『二十四の瞳』には、地元のファンが数多く来場された。映画館の存在が幅広く認知されたのは、オープンから3年後に公開した『ニュー・シネマ・パラダイス』の大ヒットから。ミニシアターブーム真只中の当時は、早朝から長い列が出来た。その後もセカンド上映ながら『タイタニック』や、最高の動員数を誇る『千と千尋の神隠し』とヒット作が続く。

上映設備がビデオという縛りがあったため、最初の頃は封切作品で上映出来るものが少なかったが、東映が作品のベータカム化を積極的に行うようになると、子供たちの休みシーズンには、『ドラゴンボール』などファミリー向けのアニメが充実してきた。ところが、平成17年に突然ソニーがビデオシアター事業からの撤退を発表。「港南台シネサロン」は、その年の10月1日にフィルム上映が出来る劇場として生まれ変わった。ところが…それから10年も経たない内に、今度はフィルムからデジタル化へと業界全体が変化を強いられる事となった。その時に「存続か閉館か」の議論が交わされたが、存続するという最終決断をしたのは「映像文化を港南台から消してはいけない」という経営者の判断からだ。かくして、地元の人々の思いによって誕生した街の映画館は、デジタルを導入するという決断の下、平成25年2月23日に再始動した。

デジタルになったおかげで、フィルム時代には不可能だった一日に複数の作品を上映出来るようになった。上映作品の幅も増え、年齢層に合わせた変則的なスケジュールが組めるようになったのだ。駅前という立地の良さから、年輩のお客さんをメインとして、休日には子供を連れたファミリー層も多く、上映作品もアニメからドキュメンタリーまで多様化している。特に年輩のお客様からは「身近な場所に映画館があるから嬉しい」と喜ばれており、『モリのいる場所』や『人生フルーツ』といった良質な人間ドラマがヒットしている。ここに来場されるお客さんは、文化や芸術に関してアンテナを広く張っている方が多く、そんな人たちが観たい映画を拾い上げるため、問い合わせのあった作品は全てメモを取るようにしているという。例えば、福島の立ち入り禁止区域にある実家に戻って来た若者を描いた『家路』も、多くの問い合わせがあったため公開を決めた作品だった。(取材時2014年5月)

指定席が増えている昨今、ここは全席自由。その日の気分や混み具合で好みの席をチョイス出来るのが嬉しい。2回目の上映以降は整理券を配布しているため、先にチケットを購入して買い物をする方も多い。ワンスロープ形式の青と赤に分けられた103席の場内は、イスの背もたれの角度とスクリーンの位置が程よく、前列の人の頭が気にならない。身体にフィットするキネット社のイスに深々と腰掛けると、その心地良さは「プライベートシアターのよう」と評価も高い。近隣に住んでいるお客さんが多く、買い物に時間を合わせて一人で来場されたり、お友達と待ち合わせして飲食店街で帰りに食事をして行かれたり…と、生活の中に映画がしっかり溶け込んでいる。帰りがけに掲示されている次回作のポスターを眺めていたお客さんが「これ観たいからまた来るわね」とスタッフに声を掛ける光景を見かけた。映画を観るならば「港南台シネサロン」で…というお客様がいる限り、この街から映画の灯は消える事はないだろう。


出典:映画館専門サイト「港町キネマ通り」
取材:2014年5月

「港南台シネサロン」のホームページはこちら
https://www.konandai-birds.com/cinema/

語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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語り手:大屋尚浩

平成12年から始めた映画館専門サイト「港町キネマ通り」にて全国の映画館を紹介している。自ら現地に赴き、取材から制作まで全て単独で行う傍ら、平行して日本映画専門サイト「日本映画劇場」も運営する。

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